【フランス内部通報者保護制度】現地弁護士が詳細解説《前編》
フランス内部通報者保護法の基本《前編》
《筆者注》本稿は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、 いかなる目的においても、法律またはコンプライアンスに関する助言または意見を提供するものではありません。
内部通報者に関する「EU(欧州連合)内部通報者保護指令2019/1937」の影響を受け、フランス政府は2022年3月21日に内部通報者の保護を強化する改正法を採択した。その法律は22年10月3日の政令で補足され、これでフランスの措置はEU基準に沿ったものとなった。ただ、フランスではすでに16年12月から、「サパンII法」として知られる、内部通報者に対する包括的な保護措置が施行されていた。
フランスの法律は、これら保護体制を強化することにより、個人が報復を恐れずに不正行為を通報することを奨励し、それによって職場の透明性と説明責任を促進することを意図している。
以下、フランスの内部通報者保護法の基本の概要をQ&A形式でお伝えする。
Q1. 内部通報者とは何ですか?
フランスの法律では、内部通報者(”lanceur d’alerte”)とは、
(i) 犯罪または軽犯罪
(ii) 公益に対する脅威または危害
(iii) 国際法や国際条約あるいはEUの法律や法令に対する違反や違反の企て
に関する情報を、報告・開示する個人を指します。
法的保護を受けるためには、内部通報者は「直接的な金銭的な見返りを求めることなく」通報を行わなければなりません。例えば、モラルハラスメントやセクシャルハラスメント、差別の被害を受けた人による内部通報は、この法律の適用範囲に含まれます。また、内部通報者は信義に従い誠実に事実を報告しなければなりません。つまり、自分が開示している情報が真実であり、通報すべき行為であると信ずるに足る合理的根拠がある、ということです。
また、従前必要とされていた、通報の対象となる事実に関する個人の見識がなくても、職業上知り得た情報があれば 通報できるようになりました。
ただし、国防機密、医療機密、弁護士機密、裁判機密に関わる情報は、内部通報制度の適用外になります。
Q2. 内部通報者がこれら法的保護を受けるための具体的な要件はありますか?
まず、先にも述べた通り、この保護を受けるためには、内部通報者は「直接的な金銭的見返りを得ることなく、誠実に(個人的な利益あるいは雇用主や組織内の特定の個人への悪意に基づいたものではなく)」事実を報告しなければなりません。
雇用期間中に犯罪や違反行為を通報した従業員は、その内部通報が直接的には金銭的対価と無関係でなかったとしても、その事実が誠実に報告されたものであれば解雇されることはありません。
ただし、有効に保護されるためには、犯罪や違法行為に該当する可能性があり、雇用者が把握できていない不正事実を報告していることが必要です。
Q3. 誰でも内部通報者になり得ますか?
内部通報者は、多くの場合、職務上の不正行為を見た人です。これには、その組織の従業員のほか、在職中に不正の情報を入手した元従業員、当該組織への就職を希望しその応募の過程で情報を入手した人などが含まれます。また、以下の人も内部通報者として認められます:
・株主および役員
・取引先または下請業者
・後に名前が公表された匿名の内部通報者
・「協力者」(例:内部通報者の通報を支援する個人または民間の非営利団体)
・内部通報者と関係を持ち、職務上報復を受ける可能性のある人々
・内部通報者が管理する組織、内部通報者が勤務する組織、または内部通報者が職務上関係する組織
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