【フランス内部通報者保護制度】現地弁護士が詳細解説《前編》
Q4. 内部通報者はどのように報告すべきですか?
サパンII法では、第一に組織内での通報が義務づけられ、それが組織内で対処されなかった場合には外部への通報が認められ、それでも、必要であれば公への告発が可能でした。しかし、改正法では、こうした「段階的通報義務」が撤廃されました。
現在では、内部通報者は、内部通報か外部通報のいずれかを選択できるようになっています。つまり、従業員としての身分を持つ内部通報者は、雇用主あるいはその代理人に通報することはできますが、そうしなければならないという義務はありません。特に人権擁護局、司法・行政機関、専門機関(例えば、医療従事者は所属する医師会や薬剤師会に通報することができる)、または法令で指定された権限ある機関に通報することができます。
通報者が外部通報を行う場合、その通報者は、外部通報によって保護制度の恩恵を受けることができないときに限り、社会一般への公表を直接行うことが認められるようになります。
例外として、通報者は、報道機関、ソーシャルメディア、非政府組織(NGO)あるいは社会一般に対して、以下の場合において、自身が持つ情報を直接開示することができます:
・重大かつ差し迫った危険がある場合
・管轄当局のいずれかに照会することにより、内部通報者が報復の危険に晒される場合、または事案の状況により、内部通報を行った者に効果的な救済措置が提供されない場合
Q5. 内部通報者は誰に連絡すべきですか?
本改正法では、内部通報者の通報先は次のように挙げられています。
社内では、指定されたコンプライアンス担当者、直属またはレポートライン上の上司、雇用主、社内外の内部通報ホットライン、またはそのような通報を取り扱う特定の部署に連絡することもできます。
あるいは、関連当局に問題を知らせることもできます。関連当局には検察官、裁判官、その他の司法機関が含まれ、通報された情報・事実に基づいて調査し、法的措置を講じることができます。雇用法の分野においては、内部通報者は、DGTと称される労働総局 (訳注:Direction Générale du Travailの略で、日本の労働基準局にあたる)にも連絡できます。DGTは、外部からの労働法違反の通報の受付および対応における特定の手続き方法を定めています。2023年8月11日付のフランス労働省ウェブサイトで公開された通知には、適用範囲、満たすべき条件、内部通報の手続き方法が記載されています。
同法はまた、内部通報者の通報を収集する業務を、人権擁護局(訳注:国連の「人権擁護者の権利に関する宣言」の原則を踏まえ、国際的に承認された人権の保護や促進のために活動する政府組織)に委託しています。人権擁護局は、市民の権利と自由が尊重されることを保証する責任を負う独立した行政当局であり、内部通報者はその人権擁護局に直接通報することもできます。人権擁護局は通報を受け付けるか、管轄の司法当局に転送することができます。また、人権擁護局は、内部通報者に保護資格を与えるべきかどうかについて意見を出すこともできます。ただし、その意見はあくまでも参考意見に過ぎないということになっています。
最後に、一般に向けて公表される時は、メディア(報道機関、ソーシャルメディアなど)を通じて、あるいは一般市民に対して直接公表されることが多くあります。
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次回は、フランスの内部通報に関して雇用主が特に把握しておくべき点について、引き続き同弁護士の寄稿文の訳をお送りする。
(後編に続く)
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