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ブラジル「改正独禁法」解説《後編》現地弁護士が教える改正のポイント

コンプライアンスプログラムの利点は、単に罰則を軽減するだけではない。反競争的な慣行を排除することで、企業は訴訟や調査、社会的信用の低下に伴うコストを回避することができるからだ。企業の社会的信用は貴重な資産である―が、カルテル事件への関与は企業イメージに永続的なダメージを与え、顧客、パートナー、投資家を遠ざける可能性がある。コンプライアンスプログラムは、倫理と法令遵守に対する企業の責任を示し、ステークホルダーからの信頼を高める役割をも果たす。

実効的なコンプライアンスプログラムは企業にとって、財務面だけではなく、組織運営上においてもメリットがある。つまり、コーポレートガバナンスや社内の透明性が向上するということだ。プログラムを通して、従業員は、自社のコンプライアンスへの取り組みや、従業員が抱える懸念に経営側がいかに真摯に向き合っているかを認識するのである。その結果、従業員がより安心して不正を内部通報できる環境が構築される。加えて、適切に構成されたコンプライアンスプログラムが存在することで、プロセスや組織運営がベストプラクティスな状態にあること、また関連規制を遵守していることが担保され、内部監査と外部監査の双方が円滑に進む。

以上をまとめると、コンプライアンスプログラムは、公正な競争を保護し、反競争的慣行を防止すると同時に、関連する罰則を最小限に抑えるために極めて重要である。コンプライアンスプログラムの目的および効果は、法令遵守の促進、財務上および経営上のリスク低減、そして企業の社会的評価の保護である。また、倫理的かつ合法的な企業文化を醸成することで、企業は制裁から身を守るだけでなく、より公正で競争力のある市場形成に貢献することができる。このようなコンプライアンスへの取り組みを通して、企業は、従業員、顧客、そして社会全体に利益をもたらし、より透明で効率的なビジネス環境を実現できるのである。

(了)

編集部あとがき

独禁法違反行為は、企業や業界における慣行に根差したものが多い。上司から指示された業務が実は独禁法に抵触しており、海外、とりわけ米国では容赦なくその所属企業のみならず個人にも実刑が下される、という日本では考えられないケースが実際にいくつも存在する。企業のみならず、社員個人を守るためにも、海外競争法に関する知見を随時アップグレードしていく必要がある。

2023年、公正取引委員会は、企業が実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムを整備、運用する際に参考となるベストプラクティスを整理した、『実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド――カルテル・談合への対応を中心として――』を作成した。同ガイドには、整備・運用のためのチェックポイントも掲載されている。

【参考】公正取引委員会「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド-」の作成について(2023年12月)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/dec/231221compliance.html

また、日本企業がいかに国際カルテルに巻き込まれたか、とりわけ、意図せず、海外で独禁法違反行為を行ったとされ、摘発された個人にも焦点を当てた実録『国際カルテル――狙われる日本企業』(同時代社、2020年)も参考にされたい。

レオポルド・パゴット(Leopoldo Pagotto):…
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