三栄建築設計「創業者が反社会的勢力と交際疑惑」上場の行方#2
創業元社長“影響力遮断”の今後の行方
前述のとおり、2023年8月期第3四半期の決算書類の提出が遅滞する事態に追い込まれた三栄建築設計。理由は、今回発覚した創業元社長と反社会的勢力との関係が不当な利益供与に当たるかどうかの判断と、類似取引の有無を確認するため、第三者委員会の調査結果の報告を待って、追加的な監査手続きを行うためだが、最終的には「ホワイト化」が実現するか否かが分かれ目となる。しかし、現実は厳しい。反社問題に詳しい上場企業関係者は、次のように語る。
「基本的に、企業のホワイト化は難しい。たとえば、2021年5月に九州の設備工事会社が、自己破産を申請して倒産しました。同社は、当時の社長と暴力団員との付き合いがあったことから排除措置を受けたのですが、指名停止措置から公共事業の受注が厳しくなり、対外的な信用が失墜。排除措置の公表からわずか2週間での倒産劇でした」
暴排条例違反が社会に与えるインパクトと、会社に与える悪影響はかくも大きいのだ。そのようななか、証券関係者はこんな方策を開陳する。
「創業元社長との『遮断』を明確化するには、株式の譲渡先がその影響下にないことを客観的に示す必要があります。とはいえ、反社会的勢力と関係があったという因縁が付いた会社の株式の引き受け手はなかなか見つからないでしょう。また、元創業者が一気に持ち株を放出しては、株価は今以上に下落してしまう。これを避けるためには、たとえば、信託銀行を利用して『有価証券処分信託』を活用するなどの方法もあります。ただし、これとて、創業元社長の同意があって初めて、活用を検討できるものにほかなりません」
有価証券処分信託とは、最低売却希望価格等の条件について信託契約を結び、その範囲内で信託銀行側が可能な限り株価に影響を与えないように株式を徐々に売却処分していく方法。あくまでも信託銀行の裁量で売却が進められるため、創業元社長の影響力の遮断には適した方法と言えるが、最終的には創業元社長が決断するか否かにかかる。また、売却処分が想定どおりに完了するかの保証もない。
絶対的影響力を持つ創業者に端を発した東証プライム上場企業の反社会的勢力との交際疑惑――。内部統制を超越した存在による問題だけに、コーポレートガバナンスの立て直しが容易ではないことだけは確かだ。三栄建築設計の「ホワイト化」への道はあまりにも険しい。なお、同問題の影響および今後の展開等について、三栄建築設計側に質問を寄せたが、期日までに回答はなかった。
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