ビッグモーター兼重宏行前社長「自損の謝罪会見」は本当に必要だったのか
「謝罪会見」は本当に必要だったのか
もうひとつは、より重要な論点である。ビッグモーターは「謝罪会見」をそもそも開く必要があったのかということだ。謝罪文化が強く根付く、日本である。謝罪こそ潔い、謝罪して出直そう、などと考える人も多いが、謝罪をすることによるデメリットも念頭に置かなければならい。
アメリカのイースタン・イリノイ大学コミュニケーション学部の研究(ティモシー・クームスら「謝罪と同等の危機対応戦略を比較する――危機コミュニケーションにおける謝罪の役割と価値の明確化」)には、大変興味深い指摘があった。
一般に、企業にいて危機対応とは「謝罪」「同情」「補償」「情報提供」の4つがあるという。このなかで「謝罪」は、組織が危機の責任を受け入れ、許しを請うことであり、組織にとって経済的に最も高価な対応となる。組織が謝罪を申し出ると、訴訟や金銭的損失の可能性が出てくる。謝罪は、さらに、組織に対する訴訟に勝つための法廷での証拠として使われる。
しかし、補償と同情で代替するのはどうだろうか。より費用のかからないこの2つの戦略は、被害者のニーズに焦点を当てているため、危機の責任を負う組織に対する人々の認識を形成するうえで、謝罪と同じくらい効果的であることを示す証拠もあるという。そして、こう結論づけている。
「謝罪に伴うコストが高いことを考えると、クライシス・マネジャーは、低責任から中責任のクライシスにおいては、デフォルトとして謝罪に頼るのではなく、自信を持って補償を提供したり、同情を表明したりすることができる。倫理的、実務的には、経営陣に非があるとわかっているのであれば、謝罪が推奨される。責任がわかっているのに逃れるのは倫理に反する。しかし、責任の所在が不明であったり曖昧であったりする場合には、責任を認めないこと(同情や補償の表明)は、謝罪の重要かつ実行可能な選択肢である」
謝罪は、今まで事件を知らなかった一般国民の怒りまで呼び起こす大変リスクのある行為である。もし、記者会見の目的が、兼重氏が本当に自らが“被害者”であることを強調するためのものであったのなら、謝罪を避け、「同情」「補償」「情報提供」で逃げ切ることも選択肢にあったはずだ。
しかし、過去のビッグモーターのスキャンダルから考えても、そのように逃げる選択は出来なかったのだろう。ならば、兼重氏は徹頭徹尾、謝罪に徹すべきたったのにもかかわらず、最終的には、それもしなかった。会見で謝罪をするという、企業にとって最高度にリスクとコストの高いことを強行してしまったうえに、その目的さえ達成できなかったというわけだ。兼重氏が「記者会見をやる!」とした以上、ここでもブレーキは利かなかったのである。
持続可能な会社経営を考えるなら、謝罪会見の中身や言葉づかいを良くしようという弥縫的なことではなく、まず謝罪会見開催自体の是非から整理しておく必要がある。
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