最強アメリカ司法省に訴追された「日本人外銀マン」逆転の“国際手配3000日”を描く《特別シリーズ連載》がスタート
何の罪もなく、突如、あらぬ嫌疑をかけられて捜査当局に追われる身に。しかも、そんな災禍が日本とは大きく法体系を異にする外国で降りかかったら、一体どうなるのか。
そんな“不条理”とも言える辛酸をなめた日本人ビジネスマンがいる。本村哲也氏、52歳――。
1990年代後半、オランダ金融大手ラボバンクに入行した本村氏は、2010年頃には同行の東京支店でマネジングディレクターとして活躍していた。しかし14年、突然、アメリカにおいて「共謀罪」で起訴されることになる。外国銀行の支店幹部とはいえ、一介のビジネスマンを巻き込んだのが、国際的な金利指標である「ロンドン銀行間取引金利」(LIBOR、ライボー)をめぐる不正操作事件だった。
2012年に発覚したLIBOR不正操作事件では、ラボバンクのほかドイツ銀行、スイスのUBS、米シティコープなど大手金融機関が相次いで摘発され、合計約1兆円(当時)もの課徴金を科される一大騒動に発展。法人だけにとどまらず、個人も米英両国で相次いで訴追され、中には実際に収監される関係者も現れる事態となった。
そんな中、2014年に米司法省に起訴された本村氏。ラボバンクが最高幹部の訴追を逃れるべく、当局との司法取引に血道をあげる一方、“外国人スタッフ”に過ぎない本村氏は事実上、勤務先から切り捨てられる格好になっていったという。
それから10年余り。結論から言うと、日本にとどまって米当局と闘った本村氏は昨夏、公訴棄却を勝ち取っている。しかし、起訴から公訴棄却に至る期間は約9年、3000日にも及んだ。それは脂の乗った40代のキャリアの大半を失うに等しいことだったと言える。
果たして、その間、一人の日本人ビジネスマンはいかに苦悶し、いかに世界最強とされる米司法省と闘ったのか――。その姿は嫌疑こそまったく異なるが、アメリカ映画『逃亡者』すら思い起こさせる。そして、個人と国家権力もさることながら、個人と巨大組織の関係性、ひいてはコーポレートガバナンスに関しても多くの示唆を含んでいる。
今回、ブリュッセル支局長などを歴任した元時事通信社記者で、現在はジャーナリストとして活動する有吉功一氏が、そんな本村氏を数年にわたって取材、3000日に及んだ“逆転劇”を本誌「Governance Q」に寄稿。集中連載シリーズとしてお届けする。一人でも多くの世界を股にかける日本のビジネスパーソンにぜひともお読みいただきたい。本村氏の不条理は、決して他人事ではないのだから。
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