三谷幸喜の“ことば”から考えた「日本のコーポレートガバナンス論」の現在地【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー】
語り手でそれぞれ異なる「ガバナンス」の意味
コーポレートガバナンスに関わる議論を始める初回に筆者が重要と考える2つのキーワードを紹介しておきたい。
1つ目のキーワードが「共通言語」である。先日、劇作家の三谷幸喜氏がテレビ番組で、一緒に仕事をしたい俳優として西島秀俊氏を挙げ、その理由として自分と西島氏との間に「共通言語」があるからだと語っていた。コーポレートガバナンスの議論でも、基礎的な概念を同じイメージで捉え、理解できる(=共通言語化)ことが当然の前提となる。
もっとも、例えば、コーポレートガバナンスという概念を共通言語化することは容易ではない。なぜなら、コーポレートガバナンスは、企業経営、政策、学術で交錯する分野で用いられ、しかも実務的、学術的、国際面で非常に広がりがある概念であるため、一義的・明確に説明して定義付けることは相当な困難を伴うからである。
実際、「効率的な経営の確保および経営上の違法行為の抑止を目的とする企業の運営・管理の在り方」という会社法研究者による説明は漠然としている。
また、「コンピュータのOSのようなもので、OSが機能しないとその上でアプリが作動しないように、ガバナンスが機能しないと、優れた企業戦略を策定してもうまく実行できず、業績も上がらない。コーボレートガバナンスの最終的な目的は継続的な企業価値の創造である」という経営学者の説明も、確かにイメージは伝わるものの、ガバナンスに関わる問題を議論する上で有用なエッセンスを理解できる説明とはなっていない。
「アジャイル・ガバナンス」、「AIガバナンス」、「デジタルガバナンス」……ガバナンスが多様な局面で用いられるようになったこともガバナンスとは何かをわかりにくくしている要因かもしれない。
コーポレートガバナンス概念を固定的でスタティック(静的)な概念と捉える必要はなく、企業経営に関わる法的な制度を考える際に必要な“基礎的な要素”を含む概念として共通言語化しておけば、当面は必要、十分であろう。
このような観点で、コーポレートガバナンスを「会社法等で定められた法律の枠組みが機能して、企業の価値創造が行われるよう、会社の株主、役員、債権者による相互牽制を作動させて会社を進展させていく思想であり、会社法の規定間の潤滑油の役割を果たすものでもある」(和仁亮裕ほか「インテグリティ(Integrity)を考える」(『金融法務事情』2171号(2021)6頁)と理解しておきたい。
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