【大塚和成弁護士】会社経営権争奪戦における「IRアドバイザー」という死角《前編》
近年、アクティビスト(物言う株主)の存在感が一段と増すなか、上場企業における経営権の争奪戦も珍しいことではなくなった。アクティビスト側の要求はひと昔前のように“グリード”(強欲)として一蹴されるものは減り、多くの一般株主の賛同を得るケースも増えている。一方、要求を突き付けられる側の経営者はというと、いまだアクティビストを排除することに汲々としている印象が強い。そのような状況下で存在感を増しているのが、経営者側に就くIRアドバイザーである。しかし、そこには“死角”があると言える――。上場企業の経営支配権争いに関わる問題を知悉するOMM法律事務所の大塚和成弁護士に聞いた。
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――会社経営権の争奪戦をめぐる最近の状況をどのように見ていますか。
大塚和成 2005年から2008年にかけて、旧村上ファンドによる株式買い集めと増配などの提案活動、ライブドアによるニッポン放送買収の試みなどの動きが相次いだことに対抗して、経営者(会社)側が有事の際に導入・発動した買収防衛策の是非が裁判の場で争われたり、買収防衛策が平時導入される動きが活発になりました。その後、一定の法整備が行われ、リーマンショックが起きてアクティビスト・ファンドの活動が沈静化したことにより、平時導入の買収防衛策が廃止される傾向にありましたが、最近、アベノミクスによる資本市場の活性化もあって、再びアクティビストの動きが活発化しています。
アクティビストによる経営方針に関する提案や不正の指摘に対し、経営者側はバージョンアップされた「有事導入型・特定標的型の買収防衛策」で対抗する動きが見られます。「有事導入型・特定標的型の買収防衛策」とは、平時ではなく、アクティビストが登場した時点で、取締役会で「株主が買収の当否を判断するために時間と情報を提供してほしい。そのルールに従わないのであれば、買収防衛策を発動する」という趣旨の決議をし、実際に買収防衛策を発動して、アクティビストとそれ以外の株主とを差別的に取り扱う内容の新株予約権を無償割当てしてアクティビストの議決権を希釈化するというものです。
――裁判所は有事導入型・特定標的型の買収防衛策を認めているのでしょうか。
大塚 アクティビストが買収防衛策の発動(差別的内容の新株予約権無償割当て)の差止命令を求めて申し立てた裁判の結果を見ると、日邦産業、富士興産、東京機械製作所の事案では申立て却下、日本アジアグループ、三ツ星の事案では申立て認容という結論になっています。裁判所の判断は分かれていますが、ある程度のルールは形成されつつあり、買収の当否(裏を返せば、買収防衛策の必要性)の判断が最終的に株主総会(株主意思確認総会)の決議に委ねられているか否かが、裁判所が買収防衛策の発動を認めるか否かの一つの大きな要素になっています。
これにより、アクティビストと経営者の戦いの場が株主総会に移されることになり、両者による委任状権争奪戦(プロキシーファイト)の中で、両者から依頼されて、弁護士のほか、IRアドバイザーやPRアドバイザーの活躍の場が広がるという構図になっています。
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