顧問弁護士が「内部通報窓口」に利益相反リスク
実際、多くの大手企業では通報窓口を設置するなど体制整備を終えていたが、運用面ではやはり実を伴っていなかったようだ。自身も企業側の依頼で社外の内部通報窓口を引き受けていた弁護士が語る。
「改正前ですが、弁護士として公益通報の外部窓口を大手企業複数社から引き受けていました。数年間やりましたが、社員からの通報は年間1件あるかどうか。思った以上に少ない印象でした。忘れた頃に突然、事務所に電話が来て、そういえば、自分がその会社の通報窓口を引き受けていたことに気付く。そんな感じでしたね」
ちなみに、この弁護士は外部窓口を依頼してきた企業とは顧問契約を結ぶ関係だった。
「顧問弁護士の立場で通報を受けると、どうしても“利益相反”の問題が浮かび上がってきます。会社との顧問契約の関係上、上層部に通報内容をどのレベルまで伝えるべきか。通報者本人は弁護士である私を“味方”だと思って、自社の不正を詳らかに話すわけです。ところが、場合によっては、会社と通報者が裁判に発展するかもしれない。そんな前提で、顧問弁護士である私が、会社の不祥事に発展しかねない重要な話を通報者からあらかじめ聞いていたら、それはまずい。結局、外部の弁護士を内部通報窓口に指定するのであれば、顧問ではない先生のほうがコンフリクト(利益相反)がなくていいのではないかと会社側に提案して、数社とも窓口担当を辞めることにしました」
年間1件とはいえ、企業の顧問弁護士が不正発覚に繋がる可能性のある公益通報窓口を引き受けるのは、利益相反の疑いが生じてくる。大手企業といえども、改正前まではそうした危険因子を孕んだケースが少なくなかったとみられる。
法改正で変貌した「公益通報対応業務従事者」の周辺
では、昨年2023年の公益通報者保護法改正後はどうか。この1年を振り返って、不祥事企業の第三者委員会委員も数多く務め、内部通報の実務にも詳しい山口利昭弁護士(大阪・山口利昭法律事務所)は、「公益通報者保護法改正から丸1年という節目を迎えるわけですが、改正前後で基本的には内部通報をめぐる状況がそれほど変わったという印象は持っていない」としつつも、以下のように語る。
「とはいえ、公益通報者保護法改正によって法律だけでなく、法律の指針、指針の解説といったマニュアルが消費者庁から出されまして、企業側担当者の対応業務は相当変わりました。実務の改定に沿った形で、担当者の方を中心に熱心に取り組まれている企業が多くなったと感じています。ただ、だからといって、急に内部通報に関する運用が変わってきたなという実感はあまりありません。また、公益通報者保護法改正よって通報が増えたとか、改正法が求めているようなコンプライアンスの向上に繋がるような通報が増えたとか、そういう実感も、まだないという印象です。加えて、経営層の内部通報に対する意識が大きく変ったかというと、それもあまり変化はないように思います」
もともと今回の公益通報者保護法改正では、改正前の段階で大企業であれば内部通報の仕組み自体はすでに整っていることから、大きな混乱はないだろうと言われていた。改正に伴い、特に目立った動きがあったのは、体制整備義務に絡んで公益通報窓口の実務を担う企業現場の担当者レベル、つまり法律で定められる「公益通報対応業務従事者」の周辺だったようだ。
#2記事では主に大企業における内部通報への取り組みを軸に、取締役会の視点からも公益通報者保護法改正のインパクトを追う。