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アクティビスト丸木強氏「東証・経産省指針の陰に海外投資家」【株価とガバナンス#3】

インタビュー前編から続く)今年3月の東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けたお願い」に引き続き、8月に「企業買収における行動指針」を公表した経済産業省。双方の指針が両輪となって、株価動向や敵対的買収に対して安穏としてきた日本の上場企業に意識変革が求められている。それでは、アクティビスト(物言う株主)はこの情勢をどのように見ているのか。丸木強・ストラテジックキャピタル代表のインタビュー《中編》。

経産省指針で敵対的な超大型買収時代に?

――(前編から続く)ご指摘の通り、不動産デベロッパー大手の三井不動産や三菱地所も巨額の含み益を抱えた賃貸不動産をたくさん所有しています。しかも、利益の半分は賃貸事業が生み出しており、それが安定収益源になっていますよね。

丸木強 三井不動産や三菱地所は時価総額が2兆円とか3兆円。10%の株式を買うのでさえ2000億~3000億円かかる。だから、なかなか買収の標的になりません。そのうえ、日本には兆円単位の資金を動かせる海外の大きな投資家は、まだほとんど入って来ていません。彼らが本気で日本市場に参入してきたら、含み益を抱える巨大デベロッパーもターゲットになると思いますよ。

これまで日本では敵対的買収がタブー視されてきましたから、成功率も極めて低かったけれど、今年8月に経産省が出した「企業買収における行動指針」によって、“同意なき買収=敵対的買収”を忌避できなくなりました。今後、同意なき買収が一般化したら、三井、三菱と言えども、安泰ではなるでしょう。

――その8月に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」はどう評価されていますか。

丸木 もちろん、これも大いに評価しています。ただ、2月に出た最初の“試案”は経営者寄りで出来は良くなかったです。今回の「企業買収における行動指針」の原点は2005年と2008年に策定された「買収防衛策」に関する指針等だと勝手に理解しています。そして2019年の「公正なM&Aの在り方に関する指針」を経て、今回の指針は第3版という位置づけです。

ところが、2023年の2月に出た最初の試案では、重視すべき原則などとして「中長期的な企業価値の向上……」みたいな文言だけが随所に出てくるような中身でした。2005年と2008年の買収防衛策に関する報告書等でも「株主共同の利益」という文言が入っていて、これを重視していたのに、それすらなくなっていた。

2023年夏の2回目のパブリックコメント募集では、我々は「日本企業において『中長期』というのは“すぐにはやらない”とか、“自分の任期中はやらない”という意味ですよ」と書いて提出しました。1回目のパブリックコメント募集時には、国内だけでなく、海外の投資家にもかなり意見を聞いたんじゃないでしょうか。それで、おそらく、いろいろと言われたのでしょう。(苦笑)

――一番評価している点は?

丸木 言うなれば、「(発行体企業側にとって)嫌いな相手からであっても真摯な買収提案は検討すべし」という点ですね。今までみたいに無視できなくなりました。守りたい上場企業側からすると、一番ショックだったと思います。本当に一般株主の利益になるかどうかで判断しろと、明確に書かれてしまったんですから。

東証・経産省を突き動かす危機感

――正直、ここまで踏み込んだものは、これまでなら上場企業の集まりである経団連の猛反対に遭って日の目を見なかったと思うのですが、今回はなぜ踏み込めたのでしょうか。

丸木 その点は私に聞かれても分からないけれど……。察するに、経産省にせよ、東証にせよ、このままでは海外の投資家から日本が本当に相手にされなくなる、という強い危機感を持っているのではないでしょうか。

日本の上場企業はどんどん小粒になっていっているし、取引所間の国際競争も熾烈になっていますよね。日本市場では新規上場せず、米国ナスダックで上場する日本企業も出始めています。そもそも取引所の真の顧客は投資家です。それなのに、これまでは上場維持費を払ってくれる上場会社の顔色ばかり窺っていた印象でしたが、ちょっと変わり始めてきた感じがしています。

丸木強・ストラテジックキャピタル代表

――先ほどおっしゃられた通り、海外投資家の意見がだいぶ反映されているという話も耳にします。

丸木 これまでも、おそらく海外の投資家の意見は多少は聞いていたでしょう。ただ、今回はしっかりと聞きに行ったんだと思います。まあ、日本では普通ですが、この類の検討をする審議会やワーキングに経団連や企業経営者、それから企業側にしか付かない弁護士を入れるということ自体おかしい。彼らを規律する案を検討する会合に“規律される側”も入れるってヘンでしょう。刑法の改訂作業にドロボーを入れるようなものです。(笑)

もちろん、投資家にも情報開示などの規律を求めたりしているのですが、それも経営者が判断できるための情報提供とはいえ、目的は他の株主・一般投資家のためですよね。投資家を中心としてまず素案をつくり、それから規律される企業経営者側の意見を聞くというのなら、まだ分かりますが……。

アクティビスト丸木強氏インタビュー《後編》に続く

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