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アクティビスト丸木強氏「資本コストを理解しない経営者たち」【株価とガバナンス#2】

「ROE5%」を中計目標に掲げる企業も

――今回の東証の開示資料には、資本コストやWACCの定義とか、計算式とかまでが記載されていて、まるで初心者向けの教科書みたいでした。

丸木 それでも、これまで資本コストを一顧だにしてこなかった企業も「変わらないといけないのだ」ということまでは気づいたようで、突然、中期経営計画なんかをつくり始めた企業もあるようです。これは良いことだと思います。

4月中旬に、我々の投資先である日本証券金融が突如として中計を発表しました。東証の要請を意識したものでしたが、3年後にROE(自己資本利益率)5%を目指すという以前から公表されていた目標値のままでした。また、別の投資先であるワキタが7月に発表したPBR向上策でもROE目標は5%に据え置いたままでした。

こんな低い目標を堂々と掲げていることを説明したところ、我々の顧客である外国人投資家が爆笑していたくらい。そして、3月末に東証があのペーパーを出してからもう9カ月近く経っているのに、いまだに何もしてない会社も結構あります。

――ROEは少なくとも8%ないとダメだということは、2014年の時点ですでに伊藤邦雄・一橋大学教授(当時)の伊藤レポート(「持続的成長への競争力とインセンティブ――企業と投資家の望ましい関係構築」プロジェクト最終報告書)で明記されています。

丸木 日本には主たる収益源が、所有している不動産からの賃料収入という上場会社が結構あります。また、本業が別にあるにもかかわらず、そっちはダメで、副業というべき所有不動産からの賃料収入で経営を支えているという会社もある。そういう多くの会社の普通株式が上場しているというのは、まさに日本特有の現象です。資本コストを考えたら、欧米ではあり得ません。それでも、そんな賃料収入依存の会社の役員が、堂々と「不動産賃貸は本業です」って本気で言う。まったく資本コストを理解していないんですね。

丸木強・ストラテジックキャピタル代表

不動産賃貸業を上場企業が営む愚

――ROEの観点からも丸木さんは、社有の不動産は所有せずリート(不動産投資信託)に移管して上場会社はアセットマネジメント(総合的資産管理)に専念せよ、と提案されていますね?

丸木 リートは無税ですが、利益の90%以上は配当しなければならず、投資(=配当)利回りはせいぜい4%あるかないかです。だから、ROEも同程度くらい。無税のリートですら、その程度なんです。それを事業会社が不動産を所有する形でやったら、法人税がかかります。事業会社の自己資本比率をリートと同様に50%くらいとの前提で実効税率を30%とすると、4%の利回りの7掛けしか残らない。そうなったらROEは2.8%しかなりません。しかも、リートは100%配当するけれど、事業会社の配当性向はせいぜい40~50%のことろが多い。

不動産賃貸業を営む会社の株主は安定的な高配当を期待しているとの観点からは、まったく投資家のためになってない。ROEを高めたければ、物件はリートに移し、アセットマネジメント業務に特化すべきだし、そうすれば、開発案件も今より格段に多く手がけられます。もちろん、自社で運営するリートへの保有不動産の売却は利益相反になりかねませんから、フェアな価格で行うべきです。

そもそも普通株式とリートでは投資家が求める資本コストが違うんです。リートの方が元本価格の変動が小さいからリスクが低い=資本コストも低い、ということです。

――そういった説明を企業側にしても理解されないのでしょうか。

丸木 さすがに、我々の主張が理屈で分からないわけではないようですが、“身体”が動かない会社もあるようです。また、過去には、「リートではなく自己所有で不動産を持っていることに弊社の意味がある」とか説明する会社もありました。意味は良く理解できませんでした。

アクティビスト丸木強氏インタビュー《中編》に続く

(シリーズ「株価とガバナンス」#1から続く)PBR(株価純…
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