日経弁護士ランキング首位、太田洋弁護士「アクティビストの“本性”を見せつけられた2024年」【新春インタビュー#12前編】
斯界の賢者たちが自らのガバナンス論を語る「Governance Q」2025年新春連続インタビューの第12回は、毎年恒例の日本経済新聞「弁護士ランキング」で3年連続首位(企業法務全般)となった西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士。発行体企業側としてアクティビスト(物言う株主)の向こうを張る一方、昨今相次ぐ「同意なき買収」も手掛け、いまや会社法周辺で知らぬ者はいない著名弁護士である。そんな太田弁護士が語る、昨今の企業支配権をめぐる動向、アクティビストの動き、そして2025年のコーポレートガバナンスの行方とは――。インタビュー前編。
アクティビストにも株主への「説明責任」がある
2024年のコーポレートガバナンスをめぐる事案で、私が最も印象に残っているのは、衣料品の製造・販売を手掛けるダイドーリミテッドの一件でした。
アクティビストのストラテジックキャピタル(SC)と旧村上ファンド系の南青山不動産が登場し、大幅増配後にSCが売り抜けたという一連の騒動です。私自身はまったく関与していない事案ですが、第三者的に見ても、さまざまな論点を提起しており、非常に示唆に富むケースだったと言えるでしょう。
SC側は、ダイドーリミテッドに対してコーポレートガバナンスを改善することで企業価値を向上させることを掲げて、同社の株式を30%弱まで買い進み、本格的なプロキシーファイト(委任状争奪戦)を行ったわけです。昨年6月末の定時株主総会の結果、会社側が辛くもボード(取締役会)の過半数は守ったものの、SC側からも株主提案の3名が取締役として入りました(うち1名は就任2週間後の24年7月10日に辞任)。
外部から見た限り、これからSCがダイドーリミテッドの経営に積極的に関与して、ガバナンス向上のためのいろいろな施策を打ち出すのか……と思っていました。ところが、そこに村上世彰氏が登場してTOB(株式公開買い付け)をちらつかされたとのことで、事態は急変します。
会社側が配当予想を従来の5円から100円と大幅に引き上げ、超高額配当で株価が急騰、SC側はその陰で持ち株を全株売り抜けたのです。もっとも、村上氏が売り抜けるのはよくあることなのですが、ダイドーのガバナンス改革を声高に主張していた当のSC側も、自らが擁立した社外取締役を置き去りにして全株を売り抜けた。
SCは、受託者責任の観点から「こんなに株価が上昇した状況になったら、売り抜けるしかない」ということを、さかんに言っています。もちろん、ファンドの背後に投資家がいる以上、その主張が間違っているわけではありませんが、一方で、それまでSCがダイドーリミテッド株主に対して訴求していた主張はどうなったのか。このところの説明が完全に抜け落ちていないでしょうか。
ダイドーの株主は、SCのある種の“公約”を信じて、SC提案の候補者がボードに入ったら、ガバナンスを改善して企業価値を高めてくれるだろうと、議決権を行使していたわけです。SCが経営に関与してから一定期間が過ぎ、その中で紆余曲折があって、最終的に売り抜けたのであれば、まだ理解できます。ところが、株主総会後わずか1週間程度で売り抜けたというのは、株主から見ると、置き去りにされたという以外の何物でもありません。
投資先企業の株主に株主提案を行って、その株主から賛同の議決権をいただいているわけですから、それら株主に対しての「説明責任」があるのではないでしょうか。
アクティビストは往々にして「(経営状況について)会社=経営陣が株主に十分な説明責任を果たしてない」と主張します。実際、株主に対して会社の経営者が十分な説明を尽くしているかと言うと、そうではないケースも多い。だから、アクティビストのこうした主張自体が間違っているとは思いません。
ただし、アクティビストが株式を買い付けた企業のガバナンスを問題にして株主提案を行い、株主の支持を集め、しかも、その提案が可決された以上、アクティビストにも株主に対する説明責任は当然発生するはずです。米国では支配株主は少数株主に対して直接信認義務を負うとさえされているところです。
アクティビストが株主提案をしていない、あるいは、提案をしても可決されなかったのであれば別ですが、ダイドーリミテッドのケースはまったく違う。SCの提案は株主から信認を得て、過半以下とはいえ、取締役まで送り込んでいるのです。それなのに、株主総会直後にダイドーリミテッド株を全株売り抜けた。SCには最低限、その経緯についての説明責任があるはずなのに、そこが置き去りにされているのです。
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