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徳島県・後藤田正純知事「長期政権で“大企業病”に侵されていた県庁改革」【新春インタビュー#10前編】

「最低賃金上げ幅」全国1位に込めたメッセージ

組織を前進させるためには知事も企業経営者と同じで、ビジョン、ミッション、ストラテジー(戦略)、そしてKPI(重要業績評価指標)を現場に示していかなければいけません。特に幹部職員には口を酸っぱくして伝えてきました。なぜなら、幹部がこれらを理解して示すことさえできれば、部下の職員たちが迷った時にどう進めばいいか道筋が定まるからです。

後藤田正純・徳島県知事

さらにガバナンスの観点からも、現状維持や前例踏襲を打破して、現場主義と能力主義を徹底すること、そして現場に足を運んで生の声を聞くことが重要になります。つまり、マーケティングです。ですから、職員にもどんどんマーケティングをやってくれと伝えています。

ところで昨年2024年8月末、都道府県ごとの最低賃金(時給ベース)を84円、一気に引き上げる方針が決まりました。全国でもっとも高い引き上げ幅です(改定後の時給は980円)。23年度は下から2番目だった順位が全国27位まで上昇しました。「徳島ショック」などと言われていますが、これも前例踏襲を打破した大きな一例です。

おそらく、今年は最低賃金が1000円になると思いますが、「徳島県が最低賃金を84円、引き上げた」という報道を見た方は「思い切ったな。徳島、攻めてるな」という印象を持ったことでしょう。

そもそも最低賃金は、障がい者、外国人、高齢者の給料にも影響します。事実、学生さんなどは「月に5000円、お給料が上がりました!」と喜んでくれている。最低賃金を上げることは、社会的弱者と言われている方にも、県政がしっかりと向き合っていることを伝えることができる政策で、結果として我々のレピュテーション(評判)も上がったと思います。

先の3つのミッションで言えば、生活を保障してくれるという県民の「安心度」と、公僕としての県庁の「魅力度」の両方をアップできたと感じています。

私は常々、「自分(トップ)がいなくても回る会社をつくれるのが良い経営者」だと考えています。では、徳島県の知事である私に何ができるかといえば、それは“土壌改良”です。

土を耕し、種を蒔き、水をやって肥料と光を与える……。とはいえ、土を耕しても、種がどこにあるのか分からなければ、花を咲かせることはできない。ところが以前は、種の在り処まで上意下達、前例踏襲でやってきた。結果、花はどれだけ咲いたでしょうか?

「そんなやり方だから、ダメだったんだ」と私は職員たちに言っています。種は自分自身で見つけてこなければいけない、と。先ほど言ったように現場主義、マーケティングが必要な理由はそこにあります。

さらに「“伝える”と“伝わる”は違う」ということも重要なテーマです。

せっかく良い政策をつくっているのに、これまでは「広報誌に載せました」「ホームページやSNSで発信しました」で終わってしまう。また、国や県もさまざまな補助金支援を行っていますが、例えば農業関連だったら「農協に伝えました」で終了。日本の農業って農協だけじゃないですよね?

「いや、そうじゃないだろう。現場に行って現状を把握して来い」と。農業や企業経営の現場に足を運んだら、農協や業界団体以外の人も政策や補助金を必要としていることが分かる。「伝わる」というのは「把握する」と同義です。

徳島市万代町(県庁)にとどまっていたら、実際に県民が求めているものを把握なんかできないんです。だから、職員には現場を歩いて、政策が確実に伝わるよう、徹底してもらうようにしています。

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