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“大川原化工機事件”代理人・髙田剛弁護士「警察でも“内部不正告発”を止められない時代」【新春インタビュー#7】

“お上”を盲信してはいけない時代

髙田 剛氏(撮影=矢澤潤)

大川原化工機事件は「経済安全保障」という国家的な政策トレンドの中で事件化されたものでした。こうした観点は必要ですが、しかし行き過ぎればこの事件のように、民間企業の活動を不当に制限し、人権を侵害しかねない危険性も孕みます。

経済安全保障の機運が高まる中で、警視庁公安部外事課は、不正輸出に関する事件で手柄をあげ、存在を誇示したかったのでしょう。あるいは捜査幹部個人の出世欲も影響していたようです。

そのため、公安部は本来であれば「軍事転用可能な製品が、不正に輸出されている」という事実があったうえでそれを取り締まるべきところ、軍事転用が可能かどうか定かでないばかりか、軍事転用される具体的な懸念すらなく、したがってまた、法令を所管する経産省による事実確認や指導、監督がなされていない中で、逮捕それ自体を目的とする逮捕がなされました。

こうした暴走を許した背景には、逮捕して身柄を拘束すれば大川原化工機の幹部たちも音を上げるに違いないという甘い考えが捜査機関側にあったことは、想像に難くありません。“人質司法”という日本の刑事司法システムの大きな問題です。

また、企業側からすれば他にも看過できない問題があります。本来、経済安全保障の面からは日本企業の国際競争力を高める必要もあるにもかかわらず、競争力のある企業をともすれば廃業に追い込みかねない事態に至らしめた点です。

警視庁は、国際基準と異なる独自の法解釈を定立し、これに経産省を巻き込んで大川原化工機を立件しました。米国、欧州など他の国では自由に輸出できる器械にもかかわらず、日本は独自に輸出規制の対象にしていると主張したのです。これにより現在、噴霧乾燥器の輸出に関しては、日本だけが厳しい規制を敷いて、企業の国際競争力を削り取っているのが実情です。

これは警察だけの問題ではありません。輸出規制の法令を所管し、企業活動を支援する立場にあるはずの経産省が、警察の強引なやり方に押し負けて事件化に手を貸してしまったことにも問題があるのです。

しかも大川原化工機は、この噴霧乾燥機の輸出に関する法令をつくる段階から経産省と、いわば“二人三脚”で歩んできた企業なのです。経産省とは信頼関係があると思い込んでいました。しかし、実際はそうではなかった。経産省にはしごを外されてしまいました。

しかし、どうでしょう。仮に大川原化工機が、曖昧な法令の解釈について、自社の考えを明確に整理して、従前から経産省に積極的に相談し協議をしていたら、どうだったでしょうか。おそらく経産省は、警視庁公安部による独自解釈になびくことはなかったと思います。

ここから企業が得るべき教訓は、自社が係わる法令に解釈の余地や疑義がある場合には、明確な形で主管省庁に相談し、指導を受けてその記録を残しておくことです。省庁に相談をすることで、かえって“やぶ蛇”になるのではないかという考えは捨て、「企業活動として、間違ったことはしていない」というエビデンスを逐一残しておくことが肝要です。

規制当局をはじめとする“お上”を盲信してはいけない時代になっているのです。

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