2025年正月4日放送の「NHKスペシャル」でも改めて注目を集めた大川原化工機事件。警視庁によって一中堅企業の不正輸出容疑が捏造され、無辜の関係者が長期拘留される前代未聞の冤罪事件である。賢者が2025年のガバナンスの在り様を予測する「Governance Q」新春インタビュー7回目の今回は、同事件の弁護人を務めた和田倉門法律事務所の髙田剛弁護士。戦慄の冤罪事件から見えてくる、極限下における企業のリスクマネジメント、そしてコーポレートガバナンスのあるべき姿を語る。
大川原化工機事件が炙り出した「司法・行政」のガバナンス問題
大川原化工機事件の国賠(国家賠償請求)訴訟の控訴審が2024年12月25日に結審し、判決期日が25年5月28日と指定されました。
この事件は、経済産業省が所管する輸出規制の法令解釈の余地につけ込み、大川原化工機(横浜市・非上場)の噴霧乾燥機が生物兵器の製造に転用できるとして、警視庁公安部外事課が、ありもしない「不正輸出」をでっち上げたものです。
これまでの裁判や報道でも明らかになっているように、警察が無理筋の捜査を押し通し、20年3月に逮捕・起訴まで持ち込みましたが、結果として異例の「起訴取り消し」となり、直後の21年9月から国賠訴訟を行っています。
23年末の一審判決では国と都に1億6000万円の賠償が命じられましたが、国と都は控訴。現在はその控訴審の判決を待つ状況です。
大川原化工機事件は、訴訟の過程で明らかになった警視庁公安部の体質、法令の解釈運用をリードできなかった経産省や、起訴相当と認めた検察、そして逮捕後、勾留中に大川原化工機の幹部の一人である相嶋静夫さんが重大な病を患ったにもかかわらず、治療のための保釈を認めなかった裁判所と、「司法・行政のガバナンスの問題」としても捉えられるものだと言わざるを得ません。
中でもこの事件が極めて異例なのは、他でもない警察内部から、組織の捜査手法に疑問を呈する声が出ていることです。