検索
主なテーマ一覧

ブリヂストン荒川詔四元社長「臆病な経営が2025年のガバナンスを拓く」【新春インタビュー#1】

経営者は「揺蕩(たゆた)う経営」をやってはいけない

そもそもコミュニケーションとは伝えることではなく、相手と共用するというのが、もともとの意味なのだそうです。豪放磊落型の人の場合、そもそもが自信満々ですから、自信を持って相手に伝えることができる。しかしそれは、あくまでも伝達することであって、コミュニケーションではありません。

荒川詔四・ブリヂストン元社長(撮影=榊 智朗)

先ほど触れたタイを皮切りに、トルコやヨーロッパなどに駐在したほか、アメリカを代表する企業だったファイアストンの買収(88年)や、中国企業との合弁などのために世界各地に出張を繰り返すなど、私は会社人生のほとんどを海外で過ごしてきました。その経験から言っても、国や民族が違うと、考え方もまるっきり異なるものです。

「グローバル経営」がことさらに強調されますが、現地・現場というローカルでビジネスをするという本質に変わりはありません。いろいろなバックグラウンドを持つ人のアイデアを引き出してその協力を得て、仕事を進めるわけです。そうした体験からしても、臆病者である自分のやり方は適していると確信しました。

一方、世界はますます不確実性の高い社会なっています。そういう時代においては、コミュニケーションを取りながら仕事を進めることが絶対的に不可欠です。

高度経済成長のような右肩上がりの時代ならば、自分の考え方を強く打ち出すプッシュ型で、次々に先行して投資をしていく方が企業は発展する。早い決断をして、早い行動に出る方が勝てる可能性が高い。

しかし、複雑な方程式を解かなければいけないような今の時代には、慎重にいろいろな意見に耳を傾け、奥深いミュニケーションをとる経営が必要になっています。

当然ながら私も、コーポレートガバナンスの強化が現代の経営における基本中の基本であると認識しています。ただし、ガバナンスの関連施策を点数化して、何点以上だから、これで十分というようなことではありません。例えば、指名委員会設置会社にしたから先進的だとか、社外取締役が取締役会の過半を占めているから素晴らしいだとか……。

では、それぞれの社外取の人物像をつぶさに見たら、本当に経営のことが分かっているのかと首を傾げたくなるような会社もあるものです。継続的にガバナンスの有効性を評価し直し、さらに上のレベルを目指していく姿勢が求められます。

だからこそ、「原理原則」という考え方が、グローバルに共通する経営活動の行動規範なのです。コーポレートガバナンスの仕組みを構築しながら、問題を認識したら、原理原則に立ち戻る――この両輪で経営することで経営の実効性を担保するのです。

コーポレートガバナンスを良いものにしていく際に大事なのは、ほかならぬ経営者の行動そのものです。しかしながら、経営者がどのような考え方を持って、実際の執行を行っていけばいいかというところは、実はあまり語られていないように思います。

私は、経営者の行動というのは原理原則に裏付けられていることが大前提だと考えています。コーポレートガバナンスの細目は尊重しなければなりませんが、いくら細目を並べ立てたところで、実際の経営はそれだけで対応できるものではありません。だからこそ、経営者には原理原則を愚直に堅持することが求められるのです。

私には辛い思い出があります。私のブリヂストン社長時代(06年3月~12年2月)に石油を貯蔵施設に送るマリンホースの国際談合事件(07年)が発覚しました。結果的に、和解金を米司法省に支払うことになりましたが、その時の対応も原理原則に則ったものであるよう努めました。

つまり、「正直に行く、ウソは一切言わない」という方針を対策チーム、そして全社的に宣言し、何とか解決にこぎ着けました。

私は経営者が自分の意思で判断して意図して利益を出すのではなく、たまたま利益が出て運が良かったみたいな経営は一切したくないのです。そういうものは、私がもっとも嫌う「揺蕩(たゆた)う経営」なのです。ゆらゆらと定めなく漂うような経営を経営トップは絶対にやってはいけない。

荒川詔四:ブリヂストン元社長 創業者やグローバル企業…
原理原則に則りながら“自由な経営”を 2025…
1 2 3

ランキング記事

ピックアップ

  1. 【2024年12月26日「適時開示ピックアップ」】新明和工業、アクアライン、DIC、日鉄、日本ケミコ…

    12月26日木曜日の東京株式市場は続伸した。日経平均株価は、前日比437円高い3万9568円で引けた。トヨタ自動車や本田技研工業(ホンダ)な…

  2. ハローキティと企業・組織の心理的安全性【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#8】…

    心理的安全性は不正・不祥事の早期発見にも機能する 確かに、心理的安全性は、組織のパフォーマンス向上にとって欠かせないことは読者にとっても共感…

  3. 証券取引等監視委員会・浜田康元委員「日本企業の実力を映し出すマーケット整備を」【新春インタビュー#2…

    求められる証券監視委の“組織強化” 貯蓄から投資へという大きな流れの中で、個人も含めて株式投資が盛り上がってきています。にもかかわらず、証券…

  4. 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#7】ゴーゴーカレー、カワン・ラマ・グループ(インドネシア)、ウ…

    ゴーゴーカレー、インドネシアで現地流通大手と店舗網拡大 「金沢カレー」の火付け役となったカレーチェーン、ゴーゴーカレーグループ(石川・金沢市…

  5. 【米国「フロードスター」列伝#4】シティグループで25億円横領した“ジャマイカから来た元少年”…

    ジャマイカ人移民の少年が抱いたアメリカンドリームとその実現 ゲイリー・フォスターは、カリブ海の島国ジャマイカの、外界とはほとんど接点のない、…

  6. 【ベーカー&マッケンジー 井上朗弁護士が徹底解説】トランプ政権は日本企業のガバナンスにどう襲…

    日本製鉄のUSスチール買収の行方 ──現在、日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐって米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が安全保障の…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス