【会計士「自主規制」機能喪失#2】監督当局の手に落ちた”会計プロフェッション”の倫理基準
会計の世界で存在感を増す国際組織
翻って、日本はというと――。アーサー・アンダーセンが解散した2002年当時、私自身、日本でも対岸の火事に非ず、日本の監査法人は自らを律しなければ、アメリカの二の舞になるとの思いを持って警鐘を鳴らしたが、まったく顧みられることはなかった。しかし残念ながら、そう時を経ずして「それ見たことか」というべき事態が発生する。2005年、カネボウの長年にわたる巨額粉飾に共謀したとして、中央青山監査法人の会計士4人が逮捕されたのだ。同法人は、06年にみすず監査法人に改称して再起を図るものの、翌07年、金融庁からの監査業務停止処分を受けて、4大監査法人の一角を成していた名門監査法人は消滅したのである。
その後、日本でも監査法人・会計士を取り巻く環境変化は一段と大きくなっていく。また、時期は前後するが、日本は1990年代後半からバブル崩壊後の金融危機に見舞われていた。金融再生を求める声が高まる一方、「レジェンド問題」に象徴されるように、欧米では日本の会計・監査への不信も吹き荒れていた時期だった。
参照:【八田進二教授のガバナンス時評#3】ガバナンスを機能させるのは“不断の努力”でしかない
そんな日米での監査の失敗、監査の信頼性が失墜する事件と軌を一にするかのように、国際的な組織を軸にして国際基準の設定を確実にしていくとの流れが強まっていったものと思われる。結果、#1でも触れた国際会計士連盟(IFAC)といった国際組織の存在感が増してくるのだ。
IFACは、会計プロフェッションの業務および倫理に係る一連の基準設定を行うとともに、IFAC加盟国に対しては、その遵守を強く求めるようになってきたのである。そのため、日本での唯一の加盟団体である日本公認会計士協会(JICPA)は、監査の実務基準(監査基準委員会報告書)と倫理基準(倫理規則)の策定について、IFACの基準を翻訳して、ほぼ全面的に受け入れるようになってきた。まさに、総本山が編纂した経典を、極東の片隅の末寺が恭しく受け入れているような状況と揶揄することもできるのである。
しかし、事態はそれだけに収まらなかった。もっとも、IFACが「自主規制」を是とする会計プロフェッションの国際組織であるなら、そのIFACのもとにある前出のIESBA(国際会計士倫理基準審議会)が策定した倫理基準を、これまた自主規制団体を標榜するJICPAが多分に盲目的とはいえ、受け入れるのはまだ筋が通る。ところが2022年末、#1でも述べた通り、国際的な規制当局の意を受けたモニタリング・グループ(MG)の基準設定構造改革に伴い、IESBAとIAASB(国際監査・保証基準審議会)がIFACから分離されることになったのである。
結果、両審議会は外形的には新設の国際倫理・監査財団(IFEA)のもとで運営されることになったが、そこには証券監督者国際機構(IOSCO)の意向が色濃く反映されることになる。極論すれば、会計プロフェッションの自主規制の要である倫理基準は、監督当局の掌中に堕ちたのであり、世界の会計プロフェッションの自主規制は事実上終焉したと言わざるを得ないのである。
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