(前編から続く)少年野球のコーチを務めていた10年以上前から、「女性活躍」が 日本企業の避けては通れない重大課題になると直感していたという伝説の日本株ファンドマネージャー、窪田真之氏。インタビュー後編では、機関投資家の動き、コーポレートガバナンスなどの側面に加え、「2030年までに女性役員比率30%」の政府目標の実現性など、今後の 女性活躍の行方を聞いた――。
機関投資家の議決権行使に必要な「明確な根拠」
――キヤノンの今年の株主総会で、御手洗冨士夫会長兼社長の取締役選任議案の賛成率が前年2023年の50%割れ寸前から90%台に急上昇しました。前年はゼロだった女性取締役を今年(24年)は社外取締役で入れたためと言われています。株主、特に機関投資家の判断の振れ幅が大き過ぎるように見えます。
議決権行使はブラックボックスではありません。取締役選任案などの議決権行使について、投資顧問会社によっては、議決権行使の基準書をつくっているところがあります。「女性取締役が1人もいない場合は経営トップの再任に反対する」という基準を持っている運用会社が多かったから、キヤノンの場合、賛成比率が大きく変動したのだと思います。
投資顧問会社は、会社提案に反対するのも、賛成するのも“命がけ”です。賛成したら「どうして賛成した?」、反対したら「なぜ反対した?」と言われますから。だから、判断基準を明確にして、「この基準に従っている」って言えるようにしています。
ただし、自前で基準をつくる力のないところは、厚生年金基金連合会の基準を参考にすることもあります。また、外資の議決権行使助言会社を使ったりする例も多いでしょう。外部からすると、助言会社の基準を援用する機関投資家は、思考停止に陥っているように見えるかもしれません。でも、そうではなく、ブラックボックスじゃないクリアな判断基準を示す意味では有効です。反対票が多かった時、企業の経営者はなぜそうなったか理由が分かりやすい透明な議決権行使というわけ です。
とはいえ、 判断基準をまったく明らかにせず、機械的に「会社提案は賛成、株主提案は反対」とする運用会社がまだ多く、議決権行使にまだ不透明な部分が多いのも事実です。
――投資顧問会社の議決権行使に物言いを付けるのは、委託者ですか。それとも、当該顧問会社の親会社や関連企業ですか?
投資顧問会社は、議決権行使も含めて投資を一任されているわけですから、行使内容に直接異議を唱える人は誰もいません。ただし、どういう考えに基づいて、賛成したのか、あるいは反対したのか、運用の委託者である年金基金から質問を受けることはよくあります。年金基金では、最終受益者は、年金基金の加入者です。年金基金の理事も、年金基金から運用を受託している投資顧問会社もすべて、受益者のために運用を行う「受託者責任」を負います。受託者責任に照らして、議決権行使が適切であったか、年金基金から質問を受けた時に、投資顧問会社は、答える義務があるのです 。
議決権行使に干渉することはない年金基金がどうして投資顧問会社に質問するかというと、例えば「買収防衛策の導入」議案に賛成票を投じるにしても、反対票を投じるにしてもその根拠は何か、明確にしておくためなのです。 その時に「会議で話し合って決めた」だけでは納得されません。だからこそ、「この基準に基づいて反対した」と返すのです。例えば、「これは『受託者責任』原則に基づいて厚生年金連合会が基準を出していて、その中の第○条の項目に沿って、我々も会社側の議案に反対しました」。この説明でも足りないのなら、さらに「本議案について、会社に質問し、会社からこういう見解をもらい、これによってこの第×条、これに基づいてこの議案に反対しました」と回答しなければ、納得されません。
自分の資金で投資しているのであれば、感覚的に賛成しようが、反対しようが何の問題もありません。しかし、他人の資金を預かっている以上、明確な基準がないと許されないのです。昔、会社の営業戦略で株式を保有し、営業戦略に従って議決権行使するということがあったと聞いています。ところが、ご存知の通り、今はそういう議決権行使は許されない時代になりつつあります。