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【楽天証券・窪田真之氏インタビュー後編】「女性役員比率2030年30%」でも、管理職比率は低いまま?

企業の「残業時間」に透ける女性活躍の本気度

――東京都立大学の松田千恵子教授の研究によると、女性社外取締役の存在と会社の業績に関係がない一方、女性執行役員についてはプラスの影響を与えたそうです。

日本の企業では部長など、管理職レベルで女性比率が低く、10%にも達していないという現実があります。なのに、なぜか取締役会だけには女性の社外取締役がいるという企業が多いですよね。政府は2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%にすると掲げていますが、なかなか厳しいでしょう。
 
ちなみに、こういったデータは内閣府の男女共同参画局のサイト や、今は企業側の任意開示ですが、厚生労働省のサイト(女性の活躍推進企業データベースなど)で開示されています。特に、私が選考委員をしていた間に日本企業でガラッと変わったのが残業時間。激減しましたね。

――残業時間の減少と女性活躍はどういう関係にあるのですか。

残業が長すぎる会社は、ワーク・ライフ・バランスの柔軟な調整がやりにくく、共働きで家事・育児・介護を分担する世代にとって働きにくい会社となります。自ら選択して長時間の残業をする社員がいてもいいのですが、“隙間時間”で効率的に働く社員にとっても 働きやすい会社であることが、女性・男性にかかわらず、共働きで働く若い世代が活躍するために大切だと思います。

長時間残業が当たり前になっている会社は、一度、残業の中身を細かくチェックしたら良いと思います。近年、日本中の企業で、残業時間の減少が進んでいますが、私は残業時間を是正した会社で、残業時間の減少に比例して業績が悪くなったという例を見たことがありません。ですから、いかにムダな会議やサービス残業が多かったかが分かります。一方で、残業がなくなると残業代が減って、収入面で困るという人もいますから、まず勤務時間を正常化した上で給料を上げていけばいいわけです。

残業を正常化して、ワーク・ライフ・バランスを柔軟に調整できる体制ができたら、それを、経営者は積極的に開示したら良いと思います。厚労省のサイト「女性の活躍促進データベース」のほかにも、コーポレートガバナンス報告書 や有価証券報告書などで、企業の人材戦略を開示する場所は増えてきましたから、そこを活用したら良いと思います。投資家だけでなく、就職活動をする人をはじめ、いろんな人が開示情報からその企業の態度を見ています。

――最終的には各社のコーポレートガバナンスに行き着くということですね。経営者はどう向き合っていけばいいのですか。

自分の会社の従業員数や、年齢構成を見て、それが 10 年後にどうなるかを考えることです。そうすれば、今、どういった採用戦略や、人事戦略を取らなければいけないか分かると思います。特に産休・育休からカムバックすると、管理職のルートから外されてしまう問題は深刻です。また、社員が休職すると、その一人でやってきた仕事は、もう誰も分からなくて、どうしようもないという現場の問題があります。

これら2つの問題の解決策として、例えば週に1 回 1 時間リモート会議を開いて、そこに休職者も参加し、参加に対して会社は対価を支払うような制度をつくることが考えられます。どこの企業もやっていない制度かもしれませんが、運用はそんなに難しくはないはずです。もちろん「子育てで忙しいので、会社の業務から完全に離れたい」という選択をする人もいて当然です。強制ではなく、選択肢を与えるのが良いと思います。

でも、会社が主体的に、オプションとして実施する方法を提示すれば、その社員が抜けた現場も助かるし、本人も会社とのつながりを持続でき、特に女性の産休・育休取得者がキャリアの階段から外れるという流れを断ち切るきっかけになる面もありますよね。

――株式市場は現在、バブル崩壊前の最高値を更新するなど株高の状況です。コーポレートガバナンス・コードも整備されるなど、この 10 年程度のガバナンスをめぐる動きが奏功していると言えるでしょうか。

今回の「女性活躍」というテーマとはちょっとズレるのですが、日本株は外国人が買っているわけですから、外国人が期待している部分があるわけですよね。

かつての「持ち合い」というのは白紙委任状を出すため、一般株主の声が届きにくくなっていたわけです。 A 銀行が B 社の株を持ち、 B 社は A 銀行の株を持っている。互いに白紙委任しているから、その分、他の株主の議決権が薄められた。それが最近では改善され、いわゆる政策保有が解消してきています。そういう意味では、「ガバナンス改革は進んだ」と言えるでしょうね。そして、「さらに改革は進む」という期待で、外国人が買っているということです。

――そのガバナンス改革の目玉のひとつとして、政府が「2030年までに女性役員比率 30%」という目標を掲げています。窪田さんは先ほど、「実現はなかなか難しいのでは」と指摘されましたが、もう少し詳しくお聞かせください。

やはり、 達成は難しいかもしれません。生え抜きの女性役員比率を上げるためには、その前段階として、女性管理職比率を上げる必要があります。今、その比率が急速に上がってきていますが、それでも、10%に満たない会社がほとんどです。女性管理職比率を30%以上にすることから、取り組む必要があります。

女性管理職が少ない理由は、女性がワーク・ライフ・バランスを柔軟にコントロールしながら管理職を目指す体制が出来上がっている会社が少ないからだと思います。男性育休比率や、育休取得日数の低い会社が多く、共働き世帯で、家事・育児の負担が女性に重くなることが多いからです。

女性の管理職登用を積極的に進めている会社でも、いまだに、管理職になれなかったから、男性から「逆差別だ」という批判も受けるのは事実です。投資家の視点で言えば、「男だから」「女だから」と区別する必要はなく、人手不足が深刻になる時代に、有能な人材が効率的に働く枠組みをつくれば良いだけです。4~5年の短期的な視点ではなく、10~20年を見据えて、企業の事業を盛り上げて、持続的に成長する仕組みをつくっていくことが、経営者の使命です。それには、まず、共働きで、家事・育児・介護を分担しながら、管理職を目指す女性が増える仕組みをつくることが、必要だと思います。

(了)

窪田真之:楽天証券経済研究所長 兼 チーフ・ストラテジスト…
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