【楽天証券・窪田真之氏インタビュー前編】2000億円を動かしたファンドマネージャーが断言「女性活躍なくして日本企業の成長なし」
ファンドマネージャーとして2000億円を超える資金を運用してきた楽天証券経済研究所長の窪田真之氏。25年以上にわたって日本株のファンドマネージャーを務め、数多の企業をリサーチしてきた窪田氏だが、その際、特に着目するのが「ヒト」だ 。中でも「女性活躍」を実現できるか否かが、日本企業の存続の分かれ目だという。伝説のファンドマネージャーが語る日本企業における女性活躍のあるべき姿とは――。
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――窪田さんはファンドマネージャーとして長く日本株の運用を担当されてきました。その間、内閣府の「女性が輝く先進企業」表彰選考会委員も務められ、企業と女性活躍の関係にも精通されています。
私はかつてアクティブファンドを運用していましたが、中でも年金基金を担当していました。ところが当時、運用のプロが銘柄を厳選しているはずのアクティブファンドの半分以上が、ベンチマークである東証株価指数に負けていました。これが、「運用業界の不都合な真実」と言われる現象です。
その事実が広まると、年金の世界では「当てにならないアクティブファンドじゃなくて、手数料の安いインデックスに移行しよう」という流れになり、年金基金はどんどんインデックスファンド中心になっていきました。
そんな状況でアクティブファンドとして生き残るには、「東証株価指数に負けちゃいけない」わけです。負けると年金基金から解約され、インデックスファンドに乗り換えられてしまう。運用会社の社内にも「2年連続負けたら担当者はクビ」といった雰囲気がありました。
そもそも銘柄選びの重要な指針は「ヒト・モノ・カネ」です。ファンドマネージャーとして、アナリストとして、ヒト・モノ・カネを分析して、良い会社はポートフォリオに入れて、良くない会社は弾く。
運用をするに当たっては、当然、財務諸表を見ますが、財務諸表はモノとカネの情報に偏っていて、そこにヒトの情報はあまりありません。「売り上げはいくら」「バランスシートにこんな資産がある」……そういう情報はあるけれども、アクティブファンドがインデックスに負けない運用をするためには、「ヒトの情報」が実は非常に大切なのです。
以前、有価証券報告書に平均年齢とか平均給与といった従業員の状況が記載された項目がなくなった時期がありました。2023年3月期の有価証券報告書から情報開示が復活しました が、私はちょうどその不記載になっていた時期に経済産業省で非財務情報の開示についての委員 をしていました。その後、内閣府で女性の活躍を検討する委員会 が発足し、経産省の推薦で入りました。それが縁で、「女性が輝く先進企業」表彰選考会委員を7年間務めることになりました。
10年前の少年野球コーチの経験から予見した「女性登用」の宿命
――窪田さんは、日本企業における「女性活躍」の重要性を考えるきっかけには、ご自身の“個人的な体験”が大きかったそうですね。
2010年代に、私は地元の少年野球チームのコーチをやっていました。少子化が進み、古くから続く名門チームでも男の子たちを集めるのが難しくなり、廃部になるか、他と合併するかの選択を迫られるようになり始めた時期でした。
私のチームは小学校1校だけを母体としていたので、少子化が進む中で一時、存続の危機に陥りました。困り果てている時、ふと見ると、体格の良い女の子たちが、たくさん歩いているのが目に入りました。男の子だけではチームの存続が難しいわけですから、女の子の参加を募って、チームを強化しようと考えました。男の子だけに野球を教えてきた、私たちのような昭和タイプの指導者たちも、女の子の加入を増やしてどう指導していくか、真剣に考えるようになりました。
小学生の時期は男の子もまだ筋肉が発達していないから、男児と女児の腕力差はあまりありません。だから、小学生までは、体格の大きい女子は、男子と一緒に野球をできます。
これは日本企業にも共通します。
女性管理職の比率が低い企業に対して、私が経営説明会でその理由を質問すると、経営トップから「なかなか適材がいなくて苦労しています」という答えが返ってくることがあります。こういう“言い訳”を聞くと、この社長はあと4,5年で辞めるかもしれないけど、経営トップがこんな考えではこの企業は10年後どうなるのかと、心配になります。
そういう意味では、むしろ、少年野球のほうが切実です。女子選手を入部させなければチームの存続はますます厳しいわけですから。 いまや年配の古いタイプの監督ですら、女の子の指導体制をきちんと構築しようと言っているほどです 。
そして日本企業にとって重要なのは、私がコーチをしていた時の小学生たちが、新卒採用の年齢に達しているということです。少年野球をはじめ、小学校高学年の現場で起きていることは10年後の大人の世界で起きることの前触れなのです。
それはどう考えても当たり前なことなのに、どうして企業が10 年後を考えた人事制度や仕組みをつくろうとしないのか。「適材がいない」なんて言っているうちに人手不足の現実が目前に迫っている。近視眼的な日本企業が少なくないことが、不思議でなりませんね。
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