【女性社外取締役】日本総研・翁理事長インタビュー「多様性こそ価値」の時代《前編》
政府が東証プライム上場企業に対し、女性役員の割合について2030年までに30%以上とする努力目標を掲げた。今年2023年6月の女性版「骨太の方針」(女性活躍・男女共同参画の重点方針)で提示され、2025年までに女性役員を1人以上、選任するスケジュールだ。とはいえ、各企業で女性役員候補が育っているとは言い難い状況であるのも事実。当面は企業側も、女性社外取締役の登用で対応するものとみられる。しかし、企業経営においてダイバーシティ(多様性)が求められる昨今、女性登用はその一丁目一番地。むしろ、今回の施策は遅きに失した感すらある。
そこで、本「Governance Q」では、社外取締役を務める方々へのインタビューなどを通し、女性社外取締役の今に迫る特集企画を展開する。特集第1回目のインタビューは大手シンクタンク、日本総研(日本総合研究所)理事長の翁百合氏。翁氏は日銀出身で、これまで多くの政府系委員に加え、大手上場企業の社外取締役を務めてきた。女性社外取締役の日常からあるべき姿、そしてその登用が持つ可能性とは――翁氏に聞いた。
“おじさん”モノカルチャーへの違和感
――「女性活用を進める」という目標については多くの企業が取り組んでいるものの、役員登用となるとなかなか追いつかない、という実態があるように思います。世界経済フォーラムが発表した2023年のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と、特に経済・政治分野での遅れが目立ちます。その中で、日本企業が女性社外取締役を登用しようという動きに対してはどのようにお感じになりますか?
翁百合 私は「ダイバーシティ」という考え方はとても大事だと思っています。その点、さる9月に行われた岸田政権の内閣改造で、女性大臣が過去最多の5人が入閣されたのは良かったとしても、副大臣・政務官に女性ゼロというのには、違和感を禁じ得ません。依然、「モノカルチャー」で、写真も男性ばかりだと違和感のある印象ですよね。
日本企業の多くも、男女を問わず、社外取締役が入る前まではモノカルチャーでした。取締役の大半は生え抜きの男性だけで、しかも、多くは60歳以上、そんな“おじさん”が経営の意思決定をしていて、女性や若年層の視点、グローバルな視点に欠けていたと言わざるを得ません。いまや海外の株主も多い時代です。特に女性の社外取締役登用においては、「女性の視点ならでは」という考え方や「多様性を認める」ということだけでなく、もう一歩踏み込んだ「多様性こそが価値」と認識すべきです。そこからイノベーションやレジリエンス(回復力)が生まれてくる。私はそう考えています。
ですから、従業員、管理職、役員のすべてのレベルで女性比率を高めることはとても重要です。「東証プライム市場上場企業の管理職30%の数値目標(の強制)は問題ではないか」という声もあるようですが、政府主導とはいえ、ある程度の目標を持って取り組むのは良いことだと思います。
――女性登用については、政府目標では中途半端で、日本でもクォータ制(女性の比率を割り当てる格差是正措置)を入れるべきという声と、“逆差別”を懸念する声の両方があります。
翁 取り敢えずは、「30年までに30%」という政府目標の達成を目指すことで良いと思います。ただ、今回の政府目標で、女性社外取締役のニーズはさらに高まるでしょうが、やはり、数だけそろえるのではダメで、能力を高める必要があります。就任前・就任後も人材をしっかり育てていくことが必要でしょうね。
社外取締役“就任”の経緯――「女性」が理由なのか?
――翁さんは現在のブリヂストン、丸紅に加えて、これまで日本郵船、セブン銀行でも社外取締役に就任されています。どのような“ご縁”で就任されてきたのでしょうか。
翁 まだ社外取締役が今ほど一般的ではなかった時代の2008年に、日本郵船で就任したのが最初です。当初はアドバイザリーボードに入り、その後、社外取締役に就任しました。政府の行政改革関連の会議で日本郵船の会長と仕事をご一緒したことがあり、そのご縁があったからかと思いますが、アドバイザリーボードに入りました。その次のセブン銀行は当時の幹部が日銀の先輩で、私のことをご存じだったことがご縁につながったのかと思います。ブリヂストンは講演をさせていただいたご縁ですが、初めてメーカーでの社外取締役でした。そして、2017年に社外取締役に就いた丸紅には、当時勤めていた大学時代の友人から、関心があるかどうか、以前に聞かれたことがありました。いずれも、何年かお誘いをいただき、たまたま時期が合い、お受けできたという経緯があります。
――オファーに際しては「女性の視点を生かして」といったお話もありましたか。
翁 女性という点も、あったとは思います。また、エコノミストとして、金融市場や企業再生なども仕事で見てきたので、その経験を生かしてほしいということもあったかもしれません。
とはいえ、そうした経験が生かせる時もあるのですが、正直言うと、ブリヂストンのような製造業については未知でした。運転免許はありますが、クルマも運転しないので、もちろん、タイヤの細かい中身は知らないし……。恐らく、ブリヂストンには自動車が好きな男性が多いだろうし、「私でいいのだろうか?」と最初は思いましたが、興味深い企業で、時期的なタイミングも合ったので、お引き受けしました。もちろん、就任後はタイヤの製造現場を何度も見学させてもらい、大きなタイヤが湯気を立てて出来上がる光景にはびっくりしました。就任当時よりは詳しくなっています。(笑)
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