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【ビッグモーター×損保の核心#6】損保ジャパン「120億円」で躓いたガバナンス

損保ジャパンのガバナンス

人は「見たいものしか見ない」

最近の脳科学の研究では、人間は「自分の見たいものしか見ない」機能が脳には備わっていると分かってきています。脳は視界に入る物を全て認知し処理するとパンクするので、無駄な情報から脳を守るため、自分が興味を持つものしか見ない機能を持っています。逆に言うと、「見たくないものは見えない」のです。

また、社会心理学では、大勢で論議しても間違った結論を出すことがある「集団浅慮」という概念があります。一人ひとりは非常に優秀であるはずの人たちが、集団になると非合理的な判断をしてしまうということです。「集団浅慮」は、組織が危機に晒された時に、リーダーシップの欠如、行動規範の欠如、構成員の多様性の欠如などの条件が揃うと起こりやすいとされています。

7月6日の損保ジャパンの役員会は、まさにこれら2つの現象が同時に起きたと言えます。この役員会の出席者は、中間報告書も指摘しているように、社長、営業部門、保険金サービス部門に限られ、法務、コンプライアンス、リスク管理部門等の牽制部門や広報部門からの出席者がいませんでした。

ビッグモーター問題に関して、自分たちの意思決定がどのようなリスクを引き起こすのか、ビッグモーターに穏便な措置を取ることが契約者にとって正しい選択なのか、それにともなう社会的責任はどうなのかという幅広い視点での吟味が全くなされず、単眼的な議論しか行われなかったのは、こうした会議メンバーの不適切な構成にも原因があったのです。

社外取締役のいない同質な経営陣

ダイバーシティ(多様性)は今の会社経営にとって、なくてはならない要素です。一般には女性登用や外国人採用などの雇用均等をもって多様性の実現と考える風潮がありますが、そのような狭い概念ではありません。現在では多様な人材を登用し活用することで、組織の生産性や競争力の向上、経営の意思決定の正当性を確保する経営戦略として認知されています。ダイバーシティ経営のもとでは、多種多様な人が互いの考え方の違いや個性を受け入れながら、ともに成長することが期待されています。

一方、損保ジャパンの取締役会の構成は、7名の取締役全員が損保ジャパン出身者です。監査役は6名中4名が社外ですが、業務執行のところで、“社外性”が皆無なのです。上場会社ではないので、社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コードに従う必要はないと考えているのかもしれませんが、損保ジャパンの業容からして不適当であり、こういう同質メンバーによる業務執行重視の考え方が、会社の風土を無意識のうちに偏ったものに形成していたのではないかと思われます。

また、損保会社経営の車輪の一つをなすはずの保険金支払い部門を経験した取締役が一人もいないことも気になります。「保険金支払い部門軽視」と受け取られてもやむを得ない取締役の人選です。

SOMPOホールディングスにも金融庁検査が

さる11月7日、金融庁は損保ジャパンの親会社SOMPOホールディングス(HD)に検査に入りました。事前に親会社の責任も追及するとしていたので、いよいよ来たかと思いますが、この日、鈴木俊一金融担当大臣は、記者会見で検査の目的を「子会社の経営管理について適切に行っていたか、立入検査を通じて深みのある実態把握を進めていく」と説明しています。個別企業の検査目的を大臣が記者会見で述べるというのは尋常ではありません。金融庁の強い意志を感じます。

会社法では、内部統制システムの整備を取締役会の義務としており、その時に親子間で適切にリスク管理態勢を構築しなければならないのです。金融庁はおそらく損保ジャパンの検査を通じて、何らかの感触を得て、それを親会社検査で確認しようとしているものと思われます。金融庁の問題意識は以下のようなものと推測します。

① 親会社SOMPOHDは、子会社が不正を行わないか、適切に業務運営をしているかについて日頃からどのような監視(モニタリング)していたか。

② SOMPOHDはいつビッグモーターの不正を知ったのか。SOMPOHDが公表した中間調査報告書では、同社がビッグモーターの不正を知ったのは、2022年8月31日としているが、これは本当か。

③ 不正を知って、SOMPOHDの取締役会は子会社損保ジャパンにどのような指導、措置をとったのか。

親会社の責任として、特に③は重要です。いつ知ったかは別にして、子会社が不正を常習的・組織的に行っている相手と取引を継続しようとしていることについて、親会社はどう対応すべきだったのかという問題です。中間調査報告書では、SOMPOHDが積極的に指導・助言した様子がありません。親会社は子会社の意思決定を尊重し、細かいことまで介入するべきではないという一般論はありますが、こと本件は、顧客に大きな被害を与えた不正の問題ですから、親会社が何もしなかったとすれば、何を根拠として、そう判断したかについて説明する責任があります。

いずれにせよ、金融庁検査によって明らかになるでしょうから、その結果を待ちたいと思います。

(第2部完)

損保ジャパンの「車両紹介」再開 (#5から続く)とこ…
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