7月記者会見で明かされた「社長の常識は社会の非常識」
こうした不正が世間の知るところとなって、社長辞任を余儀なくされた創業者の兼重氏が2023年7月の記者会見で、「車を傷つけるなどあり得ない。これは一線を越えている。ゴルフボールを靴下に入れて振り回して損傷範囲を広げて水増し請求する。ゴルフを愛する人に対する冒涜ですよ」と述べたことは、世間の顰蹙を買いました。まさに危機管理広報の失敗、否、不在を証明するものでした。少なくとも、自動車を扱う企業のトップなのであれば、「車を愛する人に対する冒涜ですよ」と言うべきだったのです。このピントのズレた発言は、まさにビッグモーターの経営者の常識が社会の非常識であることを印象付けました。
2時間に及ぶ記者会見は、兼重社長、専務、営業本部長、内部統制監査室長の4名が出席しましたが、他社の記者会見とは違った特徴がありました。まず、全体として参加者間の事前打ち合せが十分ではなかったようで、社長の発言を他の出席者が訂正、あるいは追加補足するような場面がしばしば見られました。しかも、それをまた補足する人がいる。一体誰が全体を理解し統括しているのかが分からないのです。これはクライシスマネジメント上あってはならないことです。
その一方で、兼重社長が思うまま自由奔放に回答をしていたことが印象的でした。なかでも記者からの、事件が表面化してからもすぐには記者会見を開かなかったのはなぜか? という質問に対する兼重社長の回答には驚きました。兼重社長は自らの認識の甘さが原因としながら、「今回の調査報告書を開示して、役員の処分を行い、再発防止等を開示すれば、もうそれでいいという、そんなふうに」と答えたのです。
率直と言えば余りに率直な発言です。しかし、この兼重社長の回答こそビッグモーターのガバナンスの状態を語って余すところがありません。ビッグモーターが社会に大きなインパクトを与える存在でありながら、社長を取り巻く狭い範囲での利害しか考えられず、それ以外のお客様、社員や社会に対する責任が意識されていません。「企業の社会的責任」という観点から見て、ビッグモーターは2周も3周も遅れていたのです。
(#2に続く)