中古車販売大手、ビッグモーターによる保険金の不正請求問題がいまだ収まらない。10月末には東京、大阪を含む9店舗を閉鎖した。業界をリードすべきポジションにありながら、あまりに特異な不祥事で、それゆえ、多くの報道がなされているにもかかわらず、問題の本質が見え辛い。そればかりか、本来、被害者であるはずの損害保険会社にも批判が集まっている。とりわけ損害保険ジャパンは、保険料収入欲しさにビッグモーターによる不正を看過したとして、社長が辞任する事態にまで発展した。
そこで今回は、企業・組織の危機管理を手掛けるジャパンリスクソリューション社長で、日本経営倫理学会では常任理事(ガバナンス研究部会長)を務める井上泉氏が、ビッグモーターそのものに加え、同社との関係性が指弾される損保各社を巻き込んだ不祥事の本質を解き明かす。なお、井上氏は損保ジャパンではリスク担当役員などを歴任し、損保業界、そして損保ジャパンの事情には精通した人物。そんな井上氏が指摘する「ビッグモーター問題」の核心とは――。第1部では3回にわたってビッグモーター自体の「罪と罰」を検証する。
「顧客を利用して恥じない」社風への変質
ビッグモーターは、前社長の兼重宏行氏が1976年に出身地、山口・岩国市で「兼重オートセンター」を個人創業したのが始まりです。1980年2月に社名を「(株)ビッグモーター」に変更、その後着実に業容を拡大し、売上高5200億円、店舗数258店、従業員数6000名(2021年2月時点)を擁する堂々たる大企業に成長しました。2022年時点でビッグモーターは、中古車業界において売上高シェアは首位の約15%を占め、同社はホームページで「買取台数6年連続日本一」と喧伝しています。
ビッグモーターが数ある中古販売業者の中でこれほどの地位を占めることができたのは、単に車の販売にとどまらず、中古車買取・車検・修理・鈑金塗装・損害保険・リースなど、自動車に関する一貫した総合的なサービスを提供する店舗を全国で展開するという経営戦略によるところが大きいでしょう。このビジネスモデルを、ビッグモーター自身は「車のトータルサポート」と称しています。
今、ビッグモーターの悪行が白日の下に晒されているため、ビッグモーターが不法、不正を事として成長してきたかのように思いがちですが、そうではないでしょう。ビッグモーターはモータリゼーションの波に乗り、顧客のニーズを的確に掴み誠実な仕事をしていたからこそ、ここまで成長できたのです。
しかし、ある時点から結果としての成長や収益拡大そのことが会社の目的となり、顧客や関係者をそのための手段として利用して恥じない企業に変質していった、そこが問題なのです。その原因を探って教訓を見つけることが本稿の目的ですが、そのためには経営者と従業員、ガバナンスの状態、取引先であった損害保険会社の動きなどの要素を事実に基づいて複眼的視野で客観的に分析していくことが必要となります。