【サステナ道場】欧州「CS3D」:人権・環境デューデリジェンス義務化のインパクト
社会課題の解決に真摯に向き合う「サステナビリティ経営」への取り組みは、今や日本企業にとって喫緊の課題となっている。とりわけ、次々と新たな規制を導入するヨーロッパの動きは、日本企業にとって大きな脅威であるとともに変革へのチャンスでもある。そんな中、EU(欧州連合)が新たな指令を採択した。同指令の概要や日本企業におけるビジネスと人権の取り組みを、長年にわたりサステナビリティやガバナンスの実践と研究に携わる孤高の求道者、「マッチョ三宅」こと公認会計士の三宅博人氏が、読者の”サステナ&ガバナンス筋力向上”を目指して“骨太解説”する――(前編)。
EU理事会による「CS3D」の採択
EUの政策決定機関、EU理事会はさる5月24日、「CS3D」(企業サステナビリティ・デューデリジェンス=DD指令:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)を正式に採択した。2024年1月1日より適用が開始されている、CSRD(企業サステナビリティ報告指令:Corporate Sustainability Reporting Directive)に続くもので、今後2年以内に実施される各加盟国による国内法化を経て適用される。
対象となるのは、EU企業においては、全世界での年間純売上高4億5000万ユーロ(約750億円)超かつ平均従業員数1000人超、日本を含むEU域外企業おいては、EU域内での年間純売上高4億5000万ユーロ超の企業であり、グループ全体で当該基準を満たせば親会社が報告義務を負うこととなる。規模の大きな企業から段階的に、早ければ2027年度から、2029年以降は指令の対象となる全ての企業に適用される。罰則の上限はグローバルの年間純売上高の5%と巨額に上る。
バリューチェーンを通じた「人権・環境デューデリジェンス」の義務化
CSRDがサステナビリティ開示と保証を義務付ける指令であるのに対し、CS3Dは、自社のみならず、「バリューチェーン」を通じた人権・環境への負の影響の特定・防止・軽減・救済(苦情処理メカニズム)に対するDDを義務付けていることに特徴がある。
バリューチェーンとは、モノの供給の連鎖であるサプライチェーンを超え、原材料調達、製造・加工、物流、消費などの活動における付加価値の連鎖に着目した概念である。特に同指令では「chain of activities」(企業活動の連鎖)という単語を用いている。DDの対象には、事業の上流のすべてを含むが、下流の内、廃棄や間接的なビジネスパートナーに関する活動は含まれないと解される。
「ダブルマテリアリティ」と「リスクベースアプローチ」
各事業領域におけるインパクトの測定において、CSRDでは、同指令の委任規則であるESRS(欧州サステナビリティ報告基準:European Sustainability Reporting Standards)の定める下記の10項目に照らして、「ダブルマテリアリティ」(企業活動が外部環境から受ける財務的影響のみならず、外部環境へ与える影響も考慮)の視点から評価することを要求している。
① 気候変動
② 汚染
③ 水と海洋資源
④ 生物多様性とエコシステム
⑤ サーキュラーエコノミー
⑥ 企業内労働力
⑦ バリューチェーン内の労働者
⑧ 影響を受けるコミュニティ
⑨ 消費者とエンドユーザー
⑩ 事業運営
これに対し、CS3Dでは、人権・環境に対する負の影響の発生可能性や深刻度に基づく、「リスクベースアプローチ」の考え方を採用している。
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