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第4回【佐藤隆文×八田進二#3】不祥事発覚こそ「ガバナンス改善」のチャンス

「不祥事を繰り返す企業」と「繰り返さない企業」の違い

佐藤 少し話が戻りますが、コーポレートガバナンスの現在地ということに関して、ぜひとも付け加えておきたいのが、企業不正・不祥事の問題です。不祥事はなかなかなくなりません。現実問題として、コーポレートガバナンスの実態や本当の評価が浮き彫りになるのは、残念ながら、不祥事が起きたときです。逆説的ですが、不祥事が起きて、それが外部にも明らかになると、そこでようやく社外からその会社の真価を評価することが可能になるという面があります。だからこそ、不祥事が表面化したときは、根本的原因の究明に基づく真の改善・改革を行なう好機なので、徹底的に問題を洗い出して、コーポレートガバナンスの改善に結び付ける。それが重要なんだと思います。

八田 まさにそのとおりですね。その会社にとってのアキレス腱、弱みといったものを自覚して改善に活かす。失敗から学び、それをバネにすることが重要なわけですが、不祥事を繰り返す企業も少なくありません。

佐藤 不祥事が顕在化したときに、きちんと原因の究明をせず、場当たり的な個別事案のみの表面的な因果関係だけを整理して、原因究明を果たしたと思い込む。そういう会社だと、不祥事は繰り返されます。ですから、真の原因、通底する根本原因を特定し、その根本原因に焦点を当てた再発防止策を作る。しかも、防止策を作るだけではダメで、繰り返し繰り返し、日常の業務執行の中で実践していく。その積み重ねをした会社だけが、持続的な形で不祥事の再発を防げるのだと思います。

八田 組織というのは部署が違えども、共通したDNAを持っていますから、どこか1つの部署で起きたことは他の部署でも起きる可能性があるわけです。でも、ある部署で不祥事が起きても、「その部署だけの固有の問題だった」という分析をしてしまうと、他の部署でまた同じようなことが起きる。

佐藤 ここで難しいのは、ある会社で不祥事が顕在化していないことは、不祥事が発覚していないだけなのか、つまり、隠蔽されているのか、あるいは、不祥事の芽をごく小さいうちに摘んでいる成果なのか、区別がつきにくいという点です。どちらも表面上は、不祥事が発生していないように見える。そもそも、不祥事が発覚していないだけの会社と、不祥事を小さな芽のうちに摘んでいる会社の割合なんてものの統計は、世の中には存在しないですからね。

八田進二・青山学院大学名誉教授

八田 その意味では、最近の議論として「昔は不祥事はなかったのか・少なかったのか?」という問い掛けもありますね。実際には昔も今と同様に不祥事は起きていたけれど、表面化する機会が増えたのは、コンプライアスやコーポレートガバナンスという考え方が、多くの企業において従業員レベルまで浸透してきたからではないか、というわけです。以前なら、見て見ぬふりをする、聞いても聞かないふりをすることができたけれど、近年は発覚したときのリスクを考えると、それが怖くて出来ないという心理が働くようになったと。

実際に、内部通報窓口やホットラインの設置も求められています。公益通報者保護法もありますし、それを遵守していない会社であったとしても、社員や関係者によるSNSなどによる情報発信を止めることは現実的に不可能になっている。また、従来にも増してマスコミも不祥事に関する取材を強化している面もある。そういう意味では、企業における不祥事の発覚は、コーポレートガバナンスが機能していることの証左とも言えるのではないですか。

佐藤 確かにそう側面はあるでしょうね。会社の中の情報共有の仕組みとか、人事政策を含めた社内の回し方も進化してきていると思います。ちなみに、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントも、20年、30年前の基準で捉えていたら大きく誤りますし、深刻な不祥事に発展する可能性も否定できない。いずれにせよ、感度の良い経営者が主導する会社は差が出てくるのでしょうね。

第4回「佐藤隆文×八田進二」#4に続く

【ガバナンス熱血対談 第4回】佐藤隆文×八田進二シリーズ記事

(第4回#2から続く)プロフェッショナル会計学が専門でガバ…
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