第10回【磯山友幸×八田進二#2】トップ万能主義が「ガバナンス」を蝕む
乱脈のバブル期と重なる「学校法人」ガバナンス
八田 最近、日本で問題になっているのは、非営利組織あるいは公益法人のガバナンスの問題です。直接的な使命が儲けることではない社会福祉法人や医療法人や学校法人……社会貢献に関する業務を担った法人形態、これがどうもうまく機能していない。磯山さんは今、大学の教員も務めていますが、学校法人のガバナンスの実態、これについてどういう評価をされますか。
磯山 学校法人の今の状況というのは、駆け出し記者時代、バブル期の大阪で見た原風景と大いに重なりますね。何が一番問題かと言うと、理事長がオールマイティーになっていることです。そうなった理由は、「大学が誰のものか」という問いに答えがないから。株式会社をめぐっても「会社は誰のものか」という議論がありますが、種々のステークホルダーがいるものの、一応、株主のものではある。そこが大学はもっと難しいのです。
八田 大学の主権者は誰だということですよね?
磯山 誰の声を聞かないといけないか、ステークホルダーは誰なのか、誰の利益を最大化することなのか。「学生の利益を最大化する」とは言いますが、理念的には分かるけど、それなら、学生に経営してもらいますかという話になるわけです。ただし、アメリカの大学などを見ていると、最後は資金を出す人がガバナンスをするべきという考え。やはり本来は、OB・OGに寄付金を出してもらって、それで大学経営をするというのが正しい姿ではないでしょうか。
八田 もともと日本の私立学校は財団法人でスタートしたわけです。つまり、資金を持っている人がお金を拠出して、そして、自分たちが期待する教育理念のもとにおいて、学校を創っていった。だから、創業者、あるいは創業家出身者に絶大な権限があります。
磯山 理事会の諮問事項があったら答えてくださいということで、評議員会が設置されているのですが、実際の学校運営を行っているのは理事長ポストにある創業者やその一族です。一応、同族で理事会メンバーを独占してはいけないというふうにはなっていますが、理事長ポストを握っておけば、オールマイティーというのが実情です。
八田 資金を出した理事長からすれば、文句を言われる筋合いはないとなる。ところが、学校法人で不祥事が起きると、やはり、誰かが監視・監督をしないといけないとなる。しかし、制度上は、性善説的発想で組織を運営しているわけです。そのため、不正なんて発生するがないということで、改革に本腰を入れる流れがなかなか起きてこないのが実情です。
磯山 少子化時代において学校法人、とりわけ大学がこれから勝ち抜くためには、ガバナンスをきちんと強化していかなきゃいけないというのが、ひとつの結論でしょう。ただ、当の学校法人が、それを分かっているのか。要は、ひとえに経営をやる側の考え方次第。ただ、学校の最大の問題は、経営そのものがないことです。誰が経営しているのかも分からない。理事長自身も自覚しているのかどうか……。
八田 健全なガバナンスというのは、その組織の競争力強化の一環です。ただ、それが見方によっては、単に締め付けを厳しくしたんだろうということになる。だから、企業であれ、非営利法人であれ、トップレベルがガバナンスは見せかけではなく、本当に強化すべき問題だと心底思わないと、実際に改革なんてできません。しかし、改革は痛みを伴う。日本人はそういうことを避けたがります。そういう意味で、ガバナンス強化は一筋縄にはいかないでしょうね。最後に、磯山さんご自身の今後のテーマは何でしょう?
磯山 繰り返しになりますが、当面は大学経営、そしてガバナンスの在り様をきちんと見ていきたいですね。駆け出し記者時代に見た “社長万能主義“の企業経営と重なることは先ほど申し上げた通りですが、これから、外部から理事会に乗り込んだ不動産目当てなどの連中に、学校法人が食い物にされる事案が増えていくでしょうし、実際にそのような事態が起きています。大学教員という当事者として、そして記者として、複眼的に大学のガバナンス問題に取り組みたいです。
八田 教育界にいる私としても、大いに関心のあるところです。本日はどうもありがとうございました。
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