第9回【冨山和彦×八田進二#2】「構造不況業種」でも立て直すことはできる!
「よそ者・若者」嫌いが病巣を広げる
八田 なるほど、目から鱗ですね。それが実用化されたら、かなり運行効率が上がるでしょうからね。
冨山 今はツーリズムの時代だから、観光バスもすごい需要が伸びているんです。コツコツとそうした需要も拾っていくと、ちゃんと黒字になります。黒字であることは重要で、お金がない赤字経営での再建はリストラの痛みがより大きくなるわけです。ただ、リストラがうまくいって初めてコスト構造の帳尻が合うケースは必ずやらないとダメだったんですが、ここで結構停滞しちゃっていたのです。でも、今の時代、実はリストラは不要になってきているので、以前よりも格段に経営の自由度が上がってくるんです。
八田 そもそも人手不足だからですか。
冨山 そうです。リストラをしなくていいって、すごいアドバンテージなんです。経営が考えなきゃいけないのは「付加価値労働生産性」を引き上げることだけになりますからね。粗利を人数で割ったものが1人あたりの付加価値生産性。粗利を労働時間で割ったら時間あたりの付加価値生産性。とにかく、この両方を上げていく。これに労働分配率を掛けたものが賃金ですから、1人当たりの付加価値を引き上げると、高い賃金が払えるし、時間あたりの付加価値が高いということは同じアウトプットでも短時間で済むということになります。労働時間が少なくて給料が多いと人が集まります。こうなったら“勝ちの好循環”が生まれます。
八田 それは経営の一丁目一番地ですよね。でも、できない。
冨山 経営人材がいないからできないんですが、いないというより排除しちゃっているんですね。地方のみならず、日本社会は「よそ者・若者・バカ者」を嫌うでしょ? バカ者は嫌ってもいいけど、そこにいる人、能力もやる気もない人だけでやろうとする。能力もやる気もある人のことを、能力とやる気があるからこそ嫌う。自分たちの無能さを認めたくないですからね。だから、排除しちゃう。
八田 それ、まさにガバナンスの本質ですよね。
冨山 ホントにそうだと思います。地方で無難なオーナー承継が続いてしまうのも同じ理由によるものでしょう。能力もやる気もない人の方が、みな安心できてしまう。オーナー系なら大義名分も立つ。織田信長の部下になりたいなんて誰も思わないですからね。
八田 それでは今の劇的な環境変化や技術革新に全くついていけない。ドン詰まっていくわけですよね。
冨山 超長寿企業をみんな、よく持て囃すし、会社自身も自慢するでしょ? それって、すごい違和感があるんですよ。会社は成長しなきゃいけません。長寿命と成長に相関関係はないから、長寿命自体に価値はないです。むしろ、反比例する傾向にあるように思いますよ。
八田 アハハ、それはまた過激ですね。(笑)
冨山 長寿企業って歴史や前例、成功体験に縛られがちです。だから、成長できない。そもそも、企業ってフィクションだと思いませんか。そこで働いている人はどんどん入れ替わっていく。100年企業って言ったって、そこで働いて会社を動かしいている人は100年前からそこで働いているわけじゃない。
八田 まあ、確かにそうですね。戦前は財閥に代表されるように、経営者層は一族で固められていて、従業員はあくまで使用人、もっと言えば、奉公人ですよ。経営層も従業員もひっくるめて「みな家族」なんていう一体感はなかったんじゃないですかね。
一方、戦後昭和の価値観って、愛社精神と終身雇用を美徳としていて、社員みんなが家族。だから、「みんなで支え合おうよ」だった。その結果、1つの会社の中で儲かっている部門が儲かっていない部門を支える。工場内の流れ作業も同じですよね。早くできる人により早くやってもらう環境を整えるんじゃなくて、その余力で遅い人をカバーさせてしまう。
冨山 そんなことをしていると、競争に負けちゃう。みんなが貧乏になってしまうんです。カネボウもそうでした。繊維がダメになったから、化粧品でカバーしようとする。ここまでは許容できるとしても、繊維がますますダメになったら繊維をやめればいいのに、化粧品の儲けで支えようとする。新陳代謝を否定するんですよ。だから、共倒れになって粉飾決算に走る。
八田 その点、教育現場も明らかにそのパターンでしょうね。悪平等的な教育がもてはやされますから。そのため、伸びる学生を伸ばさないし、ダメな人も結局はフォローしきれない。
【ガバナンス熱血対談 第9回】冨山和彦×八田進二シリーズ記事
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