関係者すべてに「人権デューデリジェンス」を
いずれにしても、被害者補償を行うジャニーズ事務所と、所属タレントが移籍する新会社とに分割すべきだった。ジャニーズ事務所はすべてのタレント、ロイヤリティを新会社に譲渡する。そして新会社には、東山氏のような所属タレントからではなく、これまでのジャニーズ事務所とは一線を画した、経営者としての適格性を備えた全く新しい人物を就任させて初めて、「解体的出直し」の第一歩を踏み出した、と評価できるだろう。
ただ留意すべきは、新会社に移籍するタレントやマネジャー等の職員のすべてについて、まずはジャニー喜多川氏の性加害問題に一切関わっていないこと、さらには今回指摘されている人権問題に抵触していないことを確認するために、適切な「人権デューデリジェンス」を行うことが不可欠であるといえることである。
不祥事を起こした会社が今後の身の振り方を考える際に、「これまで全く自社と関係のなかった人物に舵取りを任せてしまっては、経営の継続性が担保できない」と、人事刷新に否定的な姿勢を見せることが往々にしてある。
しかし、問題を引き起こした〝良からぬ経営〟を刷新しようというのに、継続性に執着するのは矛盾以外の何物でもない。過去との完全なる決別によって、悪しき企業風土を断ち切る必要がある。そして、それを目に見える形でステイクホルダーに示す必要があるのだ。
あえて例を出せば、新会社では、エンターテインメント業界に造詣の深い吉本興業の元会長である大崎洋氏に新社長をお願いするのも一案ではないだろうか。反社会的組織との接点を持ったタレントに一貫して厳しい姿勢を取ってきた点。創業家との断絶、ガバナンスの正常化を図ろうと非上場化を断行した点。そして、ジャニーズ事務所とのしがらみのない点。こういった点を総合するだけでも、大崎氏の登用によって「ジャニーズ事務所は変わろうとしている」と印象付けることができるだろう。もっとも、本人が受けるかどうかは別問題ではあるが……
不祥事を起こした組織に求められているのは、強い表現を使えば、「全身の腐った血の入れ替え」である。場渡り的な輸血では、組織の体質改善は図れない。
唯一、記者会見で株を挙げたのは、ジャニーズの中でもCDデビュー等をしていない比較的年齢の低いタレントを管理する子会社「ジャニーズアイランド」の社長を従前より務めていた井ノ原快彦氏だ。
「(ジャニー氏の性加害については)言い訳になるかもしれないが、なんだか得体のしれない、触れてはいけない空気がありました」
「会見について何も知らされないまま、(所属タレントの子どもたちの)各ご家庭で会見を観ると不安になる。個々に至るまで、10代の子たちには直接会って、話しています」
確かに人柄は良いのだろう。率直に思いを語ってもいた。だが、これは日本人が好む、ある種の“人情噺”であって、「企業経営者」として評価できる類のものではない。
日本大学の理事長に就任した作家の林真理子氏も、学生が大麻所持で逮捕された問題を受けて8月に行った会見の席上、「学生たちに寄り添っていきたい」などとコメントしていた。これも組織のトップとしての役割を履き違えているという点で、井ノ原氏と共通の問題を抱えている。学生や所属タレントに「寄り添う」べきはカウンセラーないしは相談役であって、経営の舵取りを担う社長や理事長の仕事ではないのだ。
経営者、組織のトップに必要なものは何か――。組織全体の舵取りを行い、いかに目標を達成していくかという、この一点に尽きる。大所高所から組織のすべてを見て意思決定をし、指示を出していく立場が経営者であり、必要なのはその能力に他ならない。的確に判断を下すためには、経営や法の知識の蓄積が前提で、人物的にも倫理観やインテグリティ(誠実性)が求められる。
東山氏にはタレント・俳優としての能力はあったのだろう。だが、東山氏は、果たして経営者として必要な資質を持ち合わせているのか。
会見ではこれまで培ってきたタレントとしての能力でその場を乗り切ったかもしれないが、一方で会見では過去の彼自身の性加害疑惑も指摘された。東山ジャニーズがリスク管理はまるでできていないことを、早くも露呈している。
(次回#5に続く)