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「いなば食品」今どきの”若者”についていけない企業のリスク【ガバナンス時評#18】

企業の“風通しの悪さ”が大騒動に発展

ここには「時代の変化」とは別の、もうひとつのギャップが存在する。それはいなば食品という会社自体の規模や社会でのイメージと、経営サイドの自己認識のギャップだ。

いなば食品は、会社自体は1805年の鰹節生産を事業化したところから始まっており、現在のいなば食品の創業は1948年。海外法人を設立し、拡大路線に入ったのは2000年代に入ってからだ。

今や誰もが知る商品となった「CIAOちゅ~る」は2012年から発売されているが、話題になったのは17年前後で、この頃から頻繁にテレビCMを打つようになったため、社名もこれまで以上に知られるようになった。

さらに2016年に初めて売り上げが300億円を突破すると、18年度には500億円、23年には1370億円にまで急成長している。

それに伴って、社員も増加。ホームページによれば、いなば食品の総社員数は6000名に迫っており、そのうち海外の社員が3600名を超えると大々的にPRしている。他のページと文字の大きさを変えてまで、「2026年度に約1万名へ」と誇らしげに宣言してもいるのだ。

今回露呈したのは、こうした拡大路線に社内のガバナンスが追い付いていたのかという問題と言えるだろう。国内外に社員を6000名近く抱える企業が、副社長一人の体調如何で新入社員対応に遅滞が生じるというのは、そうした組織としての社内ガバナンスに重大な不備があることを示している。時代の変化と、会社をめぐる状況の変化――。今回の件は、こうした2つの変化に対応できなかったことによって生じたギャップが生み出した問題に見える。

本来は現場から「このままでは対応が間に合わない」などの声が上がり、対処を急ぐのが普通だが、いなば食品の場合はおそらくトップダウンの風潮があり、副社長の穴を埋める指示が出ない限り、対処もできないという状況に陥っていたであろうことが窺える。

会社の風通しが良くならない間に、社会の情報発信速度は格段に上がっている。本来はボトムアップ式に社内で下から情報が上がって改善すべきところ、Z世代の若者はそれでは待てないと会社を即座に辞め、自身の情報をSNSにアップしたり、週刊誌等のメディアに送ったりして外側からの変革、あるいは断罪を迫ろうとするのだろう。

現在、いなば食品は中国やタイにも進出しているというが、早晩、日本のZ世代と同じような要求が海外の労働者からも上がり始めるのではないだろうか。当初は安い給料でよく働く良質な労働者だったとしても、酷使されれば安月給では満足しなくなる。

なお、その後も『週刊文春』はいなば食品の社長・会長夫妻の行状を報じており、その内容を垣間見る限り、夫妻と社会とのギャップも大きいようだ。いずれにせよ、いなば食品は「新入社員たちが教えてくれた、ギャップから生じる問題」を早期に解消して、信用を回復すべきである。

取材・構成=梶原麻衣子

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