出向社員の報告を無視した役員ミーティング
損害保険ジャパン「ビッグモーター社による不正事案に関する社外調査委員会の中間報告書」が10月10日に公表されてから1カ月弱の11月7日、金融庁が親会社のSOMPOホールディングス(HD)に立ち入り検査を実施した。
9月8日に開いた会見で損保ジャパンの白川儀一社長は、ビッグモーターの問題にめどがつき次第、引責辞任することを発表。ただ、白川社長とSOMPOHDの櫻田謙悟会長兼グループCEO(最高経営責任者)は、詳細について、「調査委員会の報告を待ちたい」と述べるにとどまっていた。そして、今回のSOMPOHDへの金融庁立ち入り検査である。
今一度、中間報告書を紐解くと、率直に言って、損保ジャパンの不当な対応はもはやビッグモーターと共謀関係に近いと言われても不思議ではない。特に酷いのは、ビッグモーターの不正請求発覚後、損保ジャパンが行った「自主調査」の顛末である。
損保ジャパンからビッグモーターに出向していた、損害調査を行う「アジャスター」と称する立場の社員が、各地のビッグモーターの店舗を訪問して指定された車両について調査したところ、不正請求を行っていたことを確認した。しかし、ビッグモーター社員(部長)によって調査報告の内容を改竄するよう指示を受けていたというのだ。
調査を担当した損保ジャパンのアジャスター社員は憤慨したものの、指示に反することはできずに報告書を書き換えたという。ところが、アジャスター社員は書き換える前の文書も保存しており、損保ジャパンに共有。しかし2022年7月6日、損保ジャパン側はこうした書き換えがあったことを把握したうえで行った役員ミーティングで、驚くべきことにビッグモーターとの取引再開を決めてしまう。
ミーティングでは「追加調査が必要では?」という声も上がったにもかかわらず、社長の一声でこれを押し切った経緯が綴られている。伏せ字を置き換えた形で中間報告書を引用したい。
〈損保ジャパンの白川社長は、ビッグモーターが正式に提出したアフターシート(=改竄後の自主調査報告書)の内容を覆させることは困難であり、また追加ヒアリングの実施はビッグモーターに対し感情面のしこりを残すことになる、損保ジャパンの役割はビッグモーターの不正を摘発することにあるわけではなく、ビッグモーターの兼重宏行社長を信じるというビジネス判断もあり得、未来志向で、ビッグモーターに品質の高い板金工場になってもらうという前提で進むのはどうかという趣旨の意見を述べた〉
売り上げの多くを占める取引先のひとつが、保険金の不正請求を問われているにもかかわらず、損保ジャパンは役員会や取締役会に諮ることもなく、役員ミーティングで取引再開の結論を出してしまった。これは経営トップの倫理観の欠如とともに、ガバナンス上、極めて大きな問題があったと言わざるを得ない。