本誌「Governance Q」と公認不正検査士協会(Association of Certified Fraud Examiners=ACFE、本部=米国テキサス州)の特別連携企画「アメリカ『フロードスター』列伝」も残すところあと2回。第8回「世界企業「シスコ」を騙して“13万ドル不正転売男”の虚飾と末路」に続く第9回のフロードスターは、米パーク・アベニュー銀行元頭取のチャールズ・アントヌッチである。
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【発生年】2006~10年
【被害額】約130万ドル(1億1400万~1億5120万円)
【罪種】銀行詐欺
アントヌッチは、2004年6月から09年10月までニューヨークのパーク・アベニュー銀行の頭取を務め、08年10月から09年2月の間に、銀行破綻を回避し続けようと、違法な取引や資金操作、政府の救済プログラムへの不正申請に手を染める。そしてアメリカ金融界の一大スキャンダルと発展した。
08年9月のリーマン・ショックを経て、“ある人物”との関係が複雑に絡み合い、アントヌッチの貪欲と倫理感の欠如は次第に増幅、パーク・アベニュー銀行とともに彼本人の人生も狂わされていくのだった――。
本連携企画は、不正対策を使命とする世界的組織ACFEのアメリカ本部の全面協力によるものである。ACFEは日本をはじめ全世界200近い支部で構成され、9万人以上の不正対策分野のエキスパートである会員を擁し、不正防止・早期発見に取り組めるよう、さまざまな教育・支援プログラムを提供している。
その一環で、「フロードスター」と呼ばれる、有罪判決を受けた不正実行者に報酬を支払わない方針でインタビューや講演を行い、カンファレンスやセミナー・ウェビナーなどを介して、不正対策教育プログラムに組み込んでいる。
今回もこれまでと同様のアプローチで、ACFE本部が「フロードスターとの会話」(Conversation with a Fraudster)と銘打ったインタビューをもとに、アントヌッチのストーリーをお送りする。
なお、本記事にある「インタビュー」とは、上記インタビューを指す。そして、試みレベルではあるが、1950年代のアメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーの提唱した「不正のトライアングル」にも照らし合わせてみた。