東芝がアクティビストファンドとの合意文書を正当化した根拠
このようなJALの姿勢には既視感がある――。それは、東芝がまだ上場していた22年5月に、アクティビスト(物言う株主)である米ファラロン、米エリオットとの間で締結した取締役候補指名に関する合意文書(スタンドスティル契約)をめぐってである。
東芝と両ファンドと締結した合意文書は一般に公表されており、筆者は日本経済新聞の取材を受け当時、それを分析したことがあった。この文書ではファンドから送り込まれていた2人の社外取締役は東芝で得た情報を外部に漏らさないという秘密保持を原則として掲げながら、
①「真摯な目的」で情報を必要とする場合、出身元のファンドに対して取締役という立場で得た情報を流すことを認めるなど、広い例外規定が定められていて実質的には秘密保持の実態を欠いていた。
②①とは別に、出身元のファンドに情報を共有してよいかを東芝に問い合わせした場合、東芝が審査する建前となっているが、社外取締役は出身元ファンドに情報共有をすることにつき東芝に問い合わせする義務の定めがない(東芝に知らせることなく、出身元のファンドに情報を共有することが可能となる)。
③東芝買収が完了した後にファンドが再出資する「ロールオーバー」を表面上禁止しながら、東芝の取締役会と特別委員会が推奨した場合には、ファラロンとエリオットが非公開化後も株主として残る“抜け道”が認められていた。
こうしたさまざまな利益相反取引を許容する懸念が払拭できないものだった。それにもかかわらず、東芝の指名委員会は「複数の法律事務所の審査を通った合意書により、社外取締役の独立性は担保されている」と高らかに喧伝していたのだ(「東芝、株式非公開化の視界不良 利益相反リスクも」日経産業新聞22年8月1日付)。
筆者は、リーガルチェックを行った法律事務所は、合意文書がファンド以外の株主共同の利益を侵害していないと考えていたのか、疑問を感じざるを得なかった。
「複数の権威ある会社法学者」が与え得る「公正性」とは
JALを含む主要株主の株主提案によるAGPの株式併合は、7割超の賛成により承認可決されている以上、株式併合自体が覆ることは考えにくい。今後争われるとしたら、少数株主に支払われる1550円の対価の正当性についてだろう。
しかし、繰り返しになるが、これまでのリリース等を見る限り、JALが主導的に進めた株式併合は、やはり唐突で強引な印象が否めないのだ。
支配株主による少数株主の締め出しを行うには、対象会社の特別委員会と価格交渉をしてその承認を得ることが望ましい。マッコーリーのTOB価格の2015円は、買付予定数が議決権の3分の2とする条件が付けられているため、JALら3大株主らが賛同しない以上、実現可能性はなく参考程度とするとしても、AGPが起用した第三者算定機関による最小評価1710円という金額が示された以上、それを考慮して価格交渉を行うべきであった。
そのような価格交渉も行わないまま、JALは、「複数の権威ある会社法学者より、公開買付を前提としないことが公正性の観点で問題とならない旨の意見をもらっている」などとコメントして、TOBを経ることなく、性急に株式併合に突き進んだ背景には何があるのか。
読者もご存じだと思うが、学者や法律実務家の意見は、一定の仮定や前提条件を置き、その条件等を満たした場合にこうなる――という論理の進め方をすることが多い。「複数の権威ある会社法学者」の意見はJALとAGPの実態と乖離したものになっていないか、また、権威ある会社法学者がいう「公正性」は締め出される少数株主にとっても「公正」なのか、金融商品取引法の視点も考慮した、資本市場に対する関係でも、「フェアネスオピニオン」になっているのかなど、疑問は尽きない。
わざわざ「権威ある」などとの装飾後を付けたコメントに接すると、筆者のようなひねくれ者は、かえって自信がないことの現れであるなどと勘ぐってしまう。
JALにとっては、多数ある関連会社の1つに過ぎず、圧倒的に小さい会社であっても、株主や従業員など、さまざまなステークホールダーがいる上場企業であるAGPを今回のような形で非上場化したことは、資本市場に対して適切な対応とはいえない。
筆者も、JALの利用者(ステークホールダー)の1人として、JALが「社会インフラを支える公器として持続可能な成長を図る」観点からAGPの株式併合につき背景事情を含めて詳しい説明責任を果したうえで、さらに飛躍的に成長することを期待したい。