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備蓄米の廉価放出に見習いたい「会社法見直し」の視線【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#21】

制度的な欠陥のある指名委設置会社を等閑視したままでよいのか

しかし、指名委員会等設置会社には、取締役会で覆すことができない取締役の選任に関する権限を付与される指名委員会が、その権限を濫用する危険性が常に伴うという制度的な欠陥がある。

また、指名委員会制度は、昨今、社外取締役を中心として取締役会の機能強化を進めるガバナンス改革とも相容れない(研究会報告書も、取締役の過半数が社外取締役である場合には合理性が乏しいというオブラートに包んだ表現ながら、指名委員会等設置会社に問題があることは指摘している)。

さらに、指名委員会等設置会社への移行が望ましいと発言する企業実務家がいまでもいるが、企業の不祥事の発生率(調査委員会を設置して報告書を作成した企業の割合)を比較すると、どの機関設計であってもほとんど変わりはない結果となっている。

もっとも、指名委員会等設置会社を採用している企業数は、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社と比べ、圧倒的に少ないことから比較検討の結果にどこまで有意な意味があるかという見方はあるものの、企業不祥事を抑止するという点から見ると、指名委員会等設置会社がガバナンス上優れているなどといえないことは明白である。

指名委員会等設置会社を採用した上場企業(特に東証プライム上場企業)において特に問題なくワークできている企業は、会社法が指名・報酬委員会に付与した強大な権限が濫用される危険性があることを自覚し、極めて抑制的に権限を行使するという委員による運用に支えられている面が大きいように思われるが、不具合を抱えた制度を改善せず、いつまでも運用する個々人の良心やインテグリティに頼り切っていてよいのだろうか。

必要な時期に備えた“必要な検討”が不可欠

話を財務省による会計法29条の3第4項の解釈に戻そう。

財務省のホームページを見ると、「随意契約に関する事務の取扱について」(平成17年2月25日財計407号)、「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日財計2017号)、「少額随意契約の基準額の見直しについて」など、随意契約についての取り決めや運用に注視した対応が行われていることが窺われる。

これは、公共調達や国有財産の売り渡しなどに関わる性格上、財務省が、随意契約を含めた契約方式を注視して、公正・円滑に手続きを進めるための検証を繰り返していることの表われでもある。

コメの価格を緊急に引き下げなければならないという状況で会計法29条の3第4項の大胆な解釈に踏み切れたのも、常時、随意契約を含めた契約方式を意識した対応を繰り返していたことと無縁ではないだろう。

会社法の機関設計の見直しも同様ではなかろうか。大胆で、スピード感を伴う備蓄米対応を契機として、研究会報告書が総括する「将来実現すべき機関設計の在り方について、ある程度のイメージを形成しておく」のではなく、4月23日に法務省法制審議会の下に設けられた会社法制(株式・株主総会等関係)部会で始まった会社法の改正の検討の中議論し、次期会社法改正で実現しようと思えばできる程度に、3つの機関設計の理論的・実務での運用面での課題を突き詰めて準備しておくことが重要である。

研究会報告書に参加した全委員(および会社法制部会の全委員)にこのような認識を持っていただければ、今後検討される会社法改正にも期待ができるのだが、その可能性は限りなく零に近い現実を受止めつつ、会社法の改正作業を注視していきたい。

(隔週木曜日連載、#22は7月10日公開予定)

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