会社法制研究会報告書が示す「指名委員会等設置会社」見直しの方向性
今年2月、商事法務研究会から「会社法制研究会報告書」(研究会報告書)が公表された。会社法は、19年の改正から5年が経過し、国内外の情勢変化に伴い、会社法に係る課題の検討が必要な時期を迎えて、改正に向けた準備作業の段階に入った。そこで、商事法務研究会が会社法研究会を立ち上げて、そこで会社法で見直す必要がある論点をピックアップして議論を整理したものが、この研究会報告書である。
研究会報告書が取り上げた論点は、人材を円滑に確保しやすくするために従業員に対する株式の無償交付、スタートアップ等による活用を促進するための株式交付の活用範囲の拡大、手続きの簡素化、現物出資の規制緩和など、多様な論点に及ぶが、コーポレートガバナンス改革に関わる論点として「指名委員会等設置会社」にも触れられている。
昨年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」も〈コーポレートガバナンス改革について、指名委員会等設置会社制度の運用実態の検証と改善検討を含め、継続して進める〉と謳っていた。
それでは、研究会報告書は指名委員会等設置会社制度についてどのような見直しを検討し、論点整理をしているのだろうか――。このような関心をもって報告書に目を通したのだが、結論から先に言うと、筆者が期待していたような検討結果は書かれていなかった。
研究会報告書は、指名委員会等設置会社だけではなく、会社の機関設計の在り方自体を見直すことについて、下記のように記述している。
〈実務への影響が極めて大きく、短期間のうちに実現することは、困難であるとともに、相当ではないようにも考えられ、長期的な課題として取り組むべきものであるとも考えられる。仮に、そのような考え方の下で、今回は指名委員会等設置会社制度の見直しを検討するにとどめるにしても、将来実現すべき機関設計の在り方について、ある程度のイメージを形成しておくことは有益であるとも考えられる。〉
仮定を置き、婉曲的な言い回しになっているが、要するに、機関設計の問題は本格検討しないというのが研究会報告書の結論なのだ。 研究会報告書は、法務省による会社法改正案作成の参考資料となり、改正法の制定過程で重要な役割を果すことが想定される。報告書が本格検討はしないと宣言した以上、指名委員会等設置会社を含む会社の機関設計の論点は次期会社法改正では取り上げられないことが確定したといってもよい。