「随意契約」での備蓄米の放出
昨年2024 年から米の価格の値上がりが続き、店頭のコメが品薄となり、価格高騰が続いていた。「令和のコメ騒動」である。
事態を重く見た政府は今年1月31日に、米の流通が滞っている場合にも備蓄米を放出できるようルールを変更し、3月、大手集荷業者を対象に2回の入札を実施し、計約21万トンの備蓄米を放出した。しかし、備蓄米の9割以上を応札したJA全農から小売り・外食等への提供は遅々として進まず、5月中旬頃でも、消費の現場に届いたのは、政府が放出した備蓄米の約2割程度にとどまり、「備蓄米はどこに行った!?」という市民の苛立ちの声が高まる中、前農相が「コメを買ったことがない」などと発言して事実上更迭された。
小泉進次郎農相が5月21日の就任初日に、政府備蓄米をそれまでの入札方式から随意契約に切り替えることを宣言し、6月初旬から備蓄米を廉価で小売りの店頭に並べるようにすると宣言して、実際にそれを実現したことは、世論に大きな驚きをもって受止められた。
メディアの記事によると、このような大胆で、スピード感を伴う対応ができた背景には、自民党・公明党にも消費減税論がくすぶる中、それに代わる物価高対策を打ち立てたいとする政権(石破茂首相)に、コメの価格を値下げしたいという強い思惑があって、その思惑を受けた財務省が、コメの値下げを最重要課題と捉え、会計法の規定を大胆に解釈して対処したのだという。
一般競争入札ではなく随意契約を認める解釈とは
国などの機関が締結する契約方式は、大別すると、「一般競争契約」「指名競争契約」「随意契約」の3つが挙げられる。国有財産は公正な契約で、少しでも高く売ることが求められるため、「一般競争契約」が原則であり(会計法29条の3第1項)、随意契約、すなわち、契約主体が契約の相手方を選定するのに競争の方法に依ることなく、任意に特定の者を選んで締結する契約方式は、一定の要件を満たす場合に限られている(会計法29条の3第4項等)。
確かに、随意契約は、公正な契約の締結が確保されないおそれや、契約主体に不利な価格で契約を締結する可能性もある反面、競争に係る手数を省略でき手続きが簡易であり、コストも節減できるメリットがある。
そこで、会計法29条の3第4項が随意契約を認める、①「契約の……目的が競争を許さない場合」、②「緊急の必要により競争に付することができない場合」、③「競争に付することが不利と認められる場合」という要件を、米価を押し下げる必要がある場合には、これらの要件(特に②)を満たすとして、随意契約で売り出せると判断したようだ。
国有財産を随意契約で販売する場合、予定価格を作成する必要があり、歳出予算、国庫債務負担行為等の負担権限に基づいて締結しなければならないと規定されている(予算決算及び会計令79条、99条の5)。
そのため、予定価格は当該契約における最高限度額としての意味を持つことになる。小泉農相が古古米を5㎏2000円程度で店頭に並ぶようにしたいという発言を繰り返し、実際に業者が5㎏2000円程度(中にはそれ以下の価格)の価格で店頭販売できたのも、この「予算決算及び会計令」79条、99条の5という政令の根拠があったからだ。