22年6月にも、元副社長がIRJが業績を下方修正することを把握し、22年4月上旬から中旬にかけて、業績公表前に、同社株式を保有する知人に損失を回避させる目的で売却を勧めた(取引推奨)疑いで、監視委から強制調査を受けた。23年5月には東京地検特捜部が金商法違反の疑いで元副社長を逮捕・起訴、その後、有罪判決が確定した経緯がある。
確かに、22年は代表取締役副社長、今回は従業員と、インサイダー取引規制違反に関与した者(後者は5月25日時点では「関与したとの疑義」だが)の職位・階層は異なる。
ところが、IRJはIR業務では、顧客企業の経営や財務、買収の計画など、未公表の機密情報に触れる機会が多くあり、またSR業務では、アクティビスト(物言う株主)による株式の保有や、同意なきTOB(株式公開買い付け)を受けた顧客企業を支援するため、その企業とタイムリーに機微情報を共有し合う関係にある。業務上、IRJは必然的に上場企業の多種多様な未公表の重要情報(インサイダー情報)を容易に知り得る立場にあるのだ。
このよう立場にあるIRJの役職員が、その種の情報を外部に漏洩したり、不正利用したりすれば、事業の継続を根幹から揺るがす極めてクリティカル(致命的)な信用毀損、損害を同社にもたらすことは、容易に理解できるはず。
事実、今回もIRJの株価は、報道翌日の5月23日には気配値をストップ安水準である前日比150円(16.75%)安の745円まで切り下げている。度重なる不適切事案が明らかになったことで、嫌気した売りに押されているとの分析もある。そして、5月28日現在の終値は668円となっている。
有報では読み取れない「リスク管理体制」を強化する姿勢
ではIRJは、22年のインサイダー取引規制違反の事態を踏まえて、そのリスクを厳正に管理し、制御する仕組みの強化・整備をしていたのだろうか。
IRJが金商法違反を実効的に管理できるリスク管理体制を整備していたか否かを判断する材料として、24年3月期の有価証券報告書(同年6月19日公表)の【第2 事業の状況】の《3 事業等のリスク》の〈(7)コンプライアンスリスクについて〉の記述を見てみよう。
この箇所では、株主名簿管理人事務受託業務(有価証券管理業)を行うため第一種金融商品取引業の登録を受けているIRJにおいては、
・業務遂行に当たり会社法、金商法、金融商品取引所が定める関係規則等の各種の規制および法制度等の適用を受ける
・法令その他諸規則等を遵守すべくコンプライアンス体制の強化に努め、役職員等に対して適切な指示、指導等を行い、不正行為の防止・発見のために予防策を講じている
・そして、コンプラ機能を強化すべく23年7月にグループコンプライアンス室を設置し、管理監督体制の一層の強化に努めている
――との記載があり、発生可能性は「低」と評価している。
そして、「役職員等が法令その他諸規則等を遵守出来なかった場合には、当社グループのレピュテーションが悪化し現在又は将来の顧客を失ったり、監督官庁による行政処分や罰則を受けたり、業務の制限等を課されるおそれがあり、当社グループの事業の遂行に支障をきたし、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性がある」とし、リスクが発生した場合の影響度は「中」と評価する。