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【上場企業「適時開示チェック」#3】フジテック前会長の復讐「株主提案」不都合な真実

間もなく3月決算会社の定時株主総会開催が本格化する。今年2023年3月末、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍に満たない上場会社に対し、改善を求めたことも追い風になったようで、株主提案の数が過去最高になったという報道もあった。

そんな株主提案ラッシュの中でも注目を集めているのは東証プライム上場のエレベーター大手、フジテックである。

今月6月21日開催の同社定時総会の議案として、フジテックの創業家出身で筆頭株主の内山高一前会長が、取締役人事や配当などに関する合計9つの株主提案を行っている。いずれの株主提案も「会社がアクティビスト(物言う株主)の言うなりになっているから、その状態を是正するため」というのが内山氏の言い分だ。なお、厳密に言うと、内山氏のプライベートカンパニーである「ウチヤマ・インターナショナル」が株主提案を行ったのだが、本稿では内山氏として扱う。

オアシスによる社外取締役解任議案に57%が賛同

まずは事ここに至った経緯をざっとおさらいしておきたい。今回、株主提案を行った内山氏は1年前まではフジテックの社長だった。だが、同社株主である香港ファンドのオアシス・マネジメントが昨年2022年の定時株主総会で、内山氏の取締役再任議案への反対を呼びかけたのが、事の発端である。

理由としてオアシスが挙げたのが、フジテックと内山家保有の法人との間で多数の関連当事者取引を行うなど、内山氏の会社の私物化ぶりが目に余るというもので、オアシスはかなりの資金を使って調べ上げたと思われる詳細な証拠を特設サイトに公開した。

ところがフジテック側は、昨年6月の株主総会開始1時間前になって内山氏の再任議案を取り下げてしまい、役員人事案は会社提案通りに可決。ところが、内山氏は株主総会後に開催された取締役会で、非取締役の会長職に就任する挙に及ぶ。当然、オアシスは激怒することに。

そこで、オアシス側は内山氏の会長就任を阻止できなかったとして、社外取締役6人の解任請求議案を決議する目的で、臨時株主総会の開催をフジテック側に求めた。それが今年2023年2月に開催された臨時株主総会で、総会前日に辞任した1名を除く5名が解任議案の対象となり、このうち3名の解任が可決された。結果、2名の社外取締役は解任を免れたものの、うち1名は、臨時株主総会から1カ月後に辞任している。

ちなみに、解任が可決された3名のうち、立命館大学特任教授の杉田伸樹氏と元丸紅副会長の山添茂氏の2名の解任については57.2%もの賛同が集まった。オアシスの保有割合がこの時点で16.52%しかなかったことからすると、この事実は重い。

一方、オアシスが推した6名の社外取締役候補者のうち4名は可決されている。オアシスは業務の執行に影響がないようにという配慮で、岡田隆夫社長以下3名の社内取締役は解任議案の対象とせず、形式的には社内3名、解任を免れた社外2名の計5名の取締役が内山派、臨時株主総会で可決された社外4名の取締役がオアシス派と、数の上では内山派が上回っていたはずだったのだが、臨時株主総会後の取締役会で内山氏は会長職を解任されてしまった。

つまり、今回の内山氏による株主提案は、この解任劇へのリベンジにほかならない。

内山前会長の株主提案「会社側より一回り高齢の社外取締役候補」

今回、フジテック側は今年2月の臨時株主総会で解任対象にならなかった3名の社内取締役が全員退くため、新たに3人が内部昇格する案を出している。このほか、社外取締役は2月の臨時株主総会で解任を免れた1名と新たに就任した4名の計5名(うち外国人2名)の再任に加え、今回新たに外国人候補者を加えた計6名。総勢9名の人事案を提案している。

これに対し内山前会長側は、会社提案の社内取締役3名については賛成する意向を表明しているが、社外取締役候補者については会社提案の候補者とは全く別に独自に8名を提案。定款上の取締役の定員が11名なので、その枠を目一杯使う考えだ。

内山氏が推す候補者は証券会社や銀行出身者、警察OB、財務省OB、弁護士など。フジテック側はエレベーター業界出身者がいないことを批判しているものの、その点だけで言えば会社提案も1名の業界出身者がいるだけだ。

だが、一見して言えることは、内山氏提案の社外取締役候補者の年齢層が非常に高いことだ。社内取締役候補者3名の平均年齢は58歳で、フジテック側提案の社外取締役6名の平均年齢も同じ58歳だが、内山氏側提案の候補者8名の平均年齢は一回り上の70.7歳。しかも8名中5名が70歳以上で、このうち2人は79歳だ。

外国人候補者もフジテックの会社提案は3名だが、株主提案はゼネラル・エレクトリック(GE)出身で米国籍を持つ上西健次氏くらいしか見当たらない。女性候補者も会社提案は2名だが、内山前会長の株主提案は1名。

人の能力に年齢も性別も関係ないとは言っても、内山前会長の提案は昨今の情勢からすると、高齢の男性中心の構成で、イメージ良いとは言い難い。しかし、内山前会長の提案はこれだけにとどまらない。

前会長は「配当性向5割の会社に7割超の配当」を提案 …
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