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【フランス内部通報者保護制度】現地弁護士が詳細解説《後編》

Q7. 内部通報制度を設置しなかった雇用主に対する罰則はありますか?

内部通報制度が設置されていない場合に対しては、法的に特定の罰則は設けられていません。しかし、その状態は雇用者の安全義務違反と見なされる可能性があります。また、適切な内部通報制度を設けることで、問題が公にされることなく社内で対処でき、企業のレピュテーション(評判)を守ることができます。

Q8. 内部通報者はどのような保護を受けることができますか?

内部通報者は、大まかに2種類の保護を受けます。それは①刑事責任、懲戒責任、あるいは民事責任の免除と、②解雇、降格、その他職場におけるあらゆる形態の差別を含む報復行為からの保護です。

内部通報者は、通報時に通報した情報が正確であり、その情報が法の範囲内であると信じるに足る合理的な根拠があった場合に限り、通報の開示によって生じた損害について責任を負いません。

同法は、内部通報者を支援する個人や組織に対しては保護や、刑事・民事責任の免除、そして経済的・精神的支援を提供し、報復行為に対しては最高3年の禁固刑と6万ユーロの罰金を科しています。

また、内部通報者は差別的または報復的な措置や、そのような差別や報復の企てからも保護されます。内部通報者を、言わば「黙らせようとする、あるいは乱暴な手続きで葬り去ろうとする者」には、刑事罰および民事罰が科されます。

例えば、社内外のルートを通じて内部通報者を妨害したり、妨害を試みたりする者は、1年の禁固刑および1万5000ユーロの罰金が科されます(企業が法人として責任を負う場合は7万5000ユーロ)。

したがって、従業員が職務中に知り得た違法行為について、誠実に通報または証言したことを理由に解雇された場合、その解雇は無効とされます。ただし、雇用主が、解雇の決定は内部通報の権利を行使した従業員を罰する意図とは無関係な事情によるものであることを証明できる場合は除きます。

起こり得る報復から従業員を保護するため、本改正法では、内部通報者の身元を、本人の同意がある場合を除き、司法当局に明らかにしないことも保証しています。内部通報者の身元を明らかにした場合、2年の禁固刑と3万ユーロの罰金が科せられます。

通報するにあたり争議が生じた場合、内部通報者には支援措置が用意されています。例えば、法的または経済的支援を求めることができるほか、手続きや証拠に関する規則の調整を受けることもできます。

いまや内部通報制度はコンプライアンス体制の中核的な要素として位置づけられ、企業の持続可能な成長と信頼性を支えるインフラと言える。組織内の不正をはじめとする問題を早期発見し、迅速に対応、是正することにより、企業のリスクを最小限に抑え、場合によっては法令違反などの危機的状況を回避することができる。内部通報体制の不備などを突かれた中古車大手、ビッグモーターの不祥事などは、まさに他山の石というべき事例だ。

海外に拠点を持つ企業は、内部通報制度の導入時のみならず運営中においても、国や地域の法令に対する理解を深め、適切で効果的な制度を構築し、それによるコンプライアンス体制の強化とリスク管理の向上を不断に追求することが求められている。

なぜ、“公益”通報と呼ばれるのか。法令に対する理解はもちろん、今一度その基本精神に立ち返ることで、企業はサステナブルな企業経営を確保できるはずだ。

パトリック・ティエバール(Patrick Thiébart…
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