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組織不正はいつも正しい!? 若手経営学者が語る「企業不正が起こるワケ」【中原翔・立命館大学准教授】

若手研究者の視点から見る日本企業のガバナンスの課題

――そういった意味では、会社をはじめとする組織の閉鎖的な世界の「正しさ」が「本当に正しいのか」と検証する内外の目が重要となります。

中原 日本の会社でも内部監査制度や内部通報制度など、組織内の自浄作用として「正しさ」を疑う仕組みは整えられてきましたが、実際に不正が後を絶たない状況を見ると、まだ不十分だと言わざるを得ません。そうしたうえで組織不正を防ぐための重要な仕組みのひとつに、多様性(ダイバーシティ)の担保、具体的には女性役員の登用があると感じています。

ロンドン市立大学キャスビジネススクールのバーバラ・カス教授が、欧州の大手銀行の取締役会とリーダーシップの多様性に関する研究を発表しました。08年の世界金融危機以降に米国政府が大手銀行に課した罰金と比較すると、女性取締役が多い銀行ほど、不正行為に対する罰金も、制裁を受ける頻度も少ないというものでした。

もちろん、社外取締役をはじめ、女性の登用を進めれば、コーポレートガバナンスの有効性や実効性に直接結び付くと言えるほど、問題は単純なものではありません。しかし、多様性を確保していくことで、ともすれば、一元的になってしまう「正しさ」について、新たな視点を与えることができるようになる。そして、それが不正を抑止することになる可能性があるのではないでしょうか。

――若手研究者の視点から、日本におけるガバナンスやリスクマネジメントの課題はどう映りますか。

中原 私が一番気になっているのは、独立社外取締役の実効性についてです。まず、取締役会の3分の1以上を占める割合について言えば、2019年には43.6%だった割合が、23年には東証プライム市場上場企業で95%、JPX日経インデックス400の構成企業では96.7%まで増えています。これはコーポレートガバナンスの視点から見れば非常に良いことです。

ただし、今後ますます実効性を保つために、取締役会は毎年自己評価を行い、内容を分析し情報開示していくことが求められると思います。もちろん、実効性の評価には取締役会の多様性も踏まえながら常に良い方向へ向かうよう改善していかなければいけません。

さらに取締役や監査役の兼任が進むことで、専門的な知識を学ぶ機会や時間が確保されているのかも気になるところです。今年3月にACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)の岡田譲治理事長が『Governance Q』のインタビューで、時間的に余裕のない中で形式的に社外取締役・監査役が選任される場合、実効性の面からも、かえって本人たちのリスクになる場合があるとおっしゃっていました。まさに、その実効性をどこまで確保できるかが今後の課題だと思っています。

――今後のテーマを教えてください。

中原 「基準のずれ」によって起こる不正の仕組みについて書きたいですね。今回はその前段階としての位置づけで、個々人の「正しさ」という側面から組織不正について書きました。同時に組織不正の当事者にインタビューをして、「なぜ不正は起きたのか」も解明していきたいですね。ただ、当事者本人は答えられないケースが大半でしょうから、粘り強く、時間をかけて取り組みたいと思います。

(了)

中原翔・立命館大学准教授 メーカーをはじめ、日本企業…
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