東京海上、損保ジャパン…「保険料カルテル」が続くガバナンス後進国ニッポン
日本では「談合擁護論」、世界では「カルテルは生産性を阻害」が常識
とはいえ、地方の公共事業などではいまだカルテルは根強く残っているという。地方政治家を中心に、現在でも行われているカルテルの手口には以下のような方法がある。
公共事業Xの入札があり、A社、B社、C社、D社が入札をしようとしている。そこで政治家αは、B社、C社、D社に連絡をして、「今回は入札を見送ったらいいのではないか」と告げる。すると、A社のみが入札をすることになり、当然、A社が落札をすることになる。そして、次の公共事業YではB社が、その次はC社がと順々に公共事業を勝ち取るのである。地方において“ドン”と呼ばれるような政治家が誕生する背景には、このように、限られたメンバーしかいない状況で、入札資格を持つ全社とコミュニケーションをとる政治家がいれば、やりたい放題というわけである。
こうしたカルテル、談合などは、日本的な因習とも思われがちで、一部に「談合擁護論」を主張する情緒的な識者も存在していた。しかし、今日現在、カルテルや談合における先行研究において、激しい価格競争こそが社会に利益をもたらすことが知られている。
たとえば、『カルテルは経済効率を損なうか』(アンドレア・グエンスター博士・ZHAW経営法学院ビジネス情報技術研究所、2009年)という論文によれば、1983年から2004年の間に、ヨーロッパの49のカルテルで活動した141の上場企業のパフォーマンスから「カルテルを行っている期間中は、各企業の収益性が高く、生産性と研究開発投資が低くなる傾向」にあり、配分的非効率性、労働生産性、研究開発(イノベーション)投資による評価は悪化するという。
さらに『異なるカルテル政策の効果:ドイツの電力ケーブル産業からの証拠』(ハンス・テオ・ノルマン教授・デュッセルドルフ競争経済研究所、2014年)も同様の結論で、業界の利益は増すものの、生産能力の向上にはつながっていない。
カルテルは、企業が価格を監視しやすい均質的な製品市場で行われやすい。この意味で、保険会社や道路工事等の公共事業は、カルテルの舞台となることが多い。カルテルが実施されて社会が良くなることがない以上、世間から厳しい目で見られるのは当然のことだ。企業にとっても、カルテルで企業の生産性が向上しないことが各種研究より明らかになっている以上、長期的な成長をする上でカルテルに手を染めるのは、自分たちにとっても得策ではないことに早く気づいたほうがよい。
そんななか、『東洋経済オンライン』(7月1日付)によると、火災保険に加えて、東急グループ向けの賠償責任保険でも価格カルテルが発覚。東京海上、三井住友海上、あいおいの3社が同保険でもカルテルがあったことを認める報告を金融庁にしている一方、同保険の主幹事を務めた損保ジャパンのみが「やり取りは各社の担当者間であったものの、(現場の営業担当者からは)提示する具体的な保険料水準について話し合ったとは聞いていない」(同)と報告したという。
潔白であれば、当局におもねることなく、毅然として態度をとるべきなのは言うまでもない。しかし、あとで腰砕けになっては、傷は深くなるばかりだ。いずれにせよ、最後に問われるのは、経営者のコーポレートガバナンスである。
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