「会社を傷つけたい」解雇を予告された社員の抵抗
日本が労働者の雇用安定を保障しようとしてきたことは先に触れたとおりだが、高度経済成長期型のこうした雇用関係が時代にそぐわなくなっていることが指摘されて久しい。ゆえに、コーポレートガバナンスの根幹をなす「雇用」の領域において、アメリカなどの諸外国では想定できないような形で“労使問題”が発生することになる。
私が個人的に相談に乗ったケースでは、営業成績が低かった英語教材のセールスパーソン(当時33歳)が解雇を言い渡され、ユニオンに駆け込んで会社側と争いが行われた。話し合いの場が設定される一方で、ユニオンとともに、毎日のように、会社の前で「不当解雇だ」というビラを通行人や会社に出入りする人に配った。結果、会社は200万円の解決金を支払うことを打診し、ユニオン側もその回答に前向きな姿勢を示した。
しかし、解雇された事自体が自分を否定された気持ちになっている労働者は、もっと戦って、会社を傷つけたいというのだ。その後、ユニオン側の説得もあってその条件で労働者は矛を収めることにしたのだが、最後は、「経済合理性を優先する」ユニオンへの不満を爆発させていた。きちんとした法律の明文化が行われない限り、こうした解雇をめぐる不毛な争いが頻発することになり、ひいては、コーポレートガバナンスの安定性すら覚束なくなる。
大手企業が人員削減する際、テレビや新聞では「退職応募者に対して、年齢などに応じ年収の何年分を支給」といった報道がなされることが多いようだが、労働者の大半が属する中小企業を中心とした実務はどのような状況にあるのか、前出の野澤弁護士は、次のとおり解説する。
「中小企業の場合、経営側から『(退職金とは別に)基本給の数カ月分を上乗せして支給するので、穏便に退職を』といった提案がなされるのが世間相場で、1年分を超えるようなケースはまずありません。日本では、諸外国では比較的認められている給料の6~18カ月分程度の金銭を支給する形での解雇は正式には認められていませんが、水面下では4~10カ月あたりをベースに各種交渉が行われているのが実態です。労働審判などでもこの実態をベースに裁判所から和解提案されることになります」