【ACFE JAPAN岡田理事長インタビュー後編】不正対策で公認不正検査士が果たす役割
監査役が頼るべき内部監査部門と内部通報制度
――監査役が実務上頼りにするのは内部監査部門と内部通報制度だと指摘されています。
補助人が配置されているとはいえ、大半が1~3人で、監査役はいわば手足がない状態に置かれています。内部監査部門と内部通報制度は、そんな監査役が頼りにすべき存在です。しかし特に内部通報が現状、きちんと機能しているかというと、疑問ですね。
本来は、職場環境の風通しを良くすることで、いち早く不正の芽を発見し、是正するというのが、組織のあるべき姿です。とはいえ、完璧な組織はあり得ない。だから、どうしても不正の芽は完全に摘むことができないわけで、そのために内部通報制度が存在しています。
ただし、内部通報で不正や不祥事の情報が適切に上がってきていない状況がある。やはり従業員が、内部通報制度があることは知っているけれども、それを使うのに躊躇いがあるということでしょう。内部通報が不正を防ぐことはもちろん、通報しても報復されないという信頼感をどう醸成するか、この点は経営者の姿勢をどこまで示せるかになると思います。
――一方の内部監査部門について言うと、欧米の企業では、同部門は監査担当の社外取締役の傘下にあると言います。しかし、日本の場合はそうではありませんよね?
日本では内部監査部門は、社長などの傘下にあるケースがほとんどではないでしょうか。もちろん社員として内部監査部門に所属するのですから、処遇や異動などは執行の指揮下に入らざるを得ませんが、執行を監査するという観点からは、独立性が求められます。
それでも社長の指揮下に置きたがるのは、万が一への備えかと勘繰ってしまいます。経営者には、正々堂々と遠慮や忖度なく監査して欲しいという姿勢を見せて欲しいと思います。
――監査役会設置会社の取締役会はマネジメントモデル、指名委員会等設置会社は欧米型でモニタリングモデルと言われています。どう違うのでしょうか。
日本のマネジメントモデルの取締役会では重要な業務執行については取締役会で承認を受ける必要がありますが、モニタリングモデルでは重要なものを含め幅広く執行に任せるというものです。日本人の感覚では、そんなことまで任せて大丈夫なのかと感じますが、欧米式の働き方に秘訣があると思います。
拙い私の海外勤務の経験からですが、米国の職場では、クラーク(補助者)的な職能の人でもその専門性に強いプライドを持っています。仮に上席者から、その役割を超える仕事を頼まれても「ノー」とはっきり主張し、受け付けない。役割分担が明確なので、分担された仕事はプロとして徹底してこなす一方、自分の役割を超えた仕事はやりません。また、仮に上司から言われてもルールに違反することはやりません。上司との関係が悪くなると出世に響くという発想がないのです。これが欧米流のジョブ型の真骨頂でしょう。
日本でもジョブ型に移行しようと言われていますが、それは会社内でのジョブ型でしかなく、「社内で好きな仕事をやりましょう」というニュアンスすらあります。もっとも、日本企業の場合、新入社員は当初、クラークのような仕事に従事して課長、部長と進み、人によっては経営陣に出世していく。日本企業は終身雇用のメンバーシップ型だから、自分の将来を考えて、規定された役割以上の仕事でもノーと言わずに引き受けるのです。
――不正防止の点からすと、日本企業は風通しが悪い組織と言うことでしょうか?
取締役についても、同様のことが言えます。特に米国企業の場合、経営者はマネージメントのプロとして徹底的に利益を追求する。一方、社外取締役はその監視・監督に専念します。だから、監査担当の社外取締役の指揮下に内部監査部門があり、マネージメントの不正を検知しようとしているのです。極端なケースですが、海外の内部監査人は不正を見つけたら、上長に報告するのではなく、一気に規制当局に通報したりするケースがあります。仮に上長に不正を報告して、万が一、それが握り潰され、発覚が遅れたら、見つけた当の内部監査人の資格が剝奪され、内部監査のプロとして転職できなくなってしまう恐れがあるからです。
一方、日本の監査役、あるいは内部監査担当者が同じように振る舞うことができるかというと、疑問と言わざるを得ません。監査役は往々にして社長によって指名され、内部監査部門は執行にぶら下がっていて、人事も指揮命令下にある。だから、欧米のように自分の生活やキャリアが懸かっているということで、身を賭して不正を告発できない。これは日本人のマインドというよりも、制度設計を由来にしたものなのでしょう。
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