株式会社FRONTEO マーケティング統括部 間所 瞳
企業不祥事はなぜ繰り返されるのか──。国際訴訟や不正調査など、AI(人工知能)による課題解決支援などを手掛けるFRONTEO(フロンテオ)の調査によると、企業の法務・コンプライアンス担当者の約75%が「過去5年以内に不正・不祥事対応を経験している」という。日本企業では近年、コンプライアンス領域においてもKPI(重要業績評価指標)の導入が進む一方で、その実効性にはどのような課題があるのか。調査を実施したFRONTEOのマーケティング統括部・間所瞳氏が、その概要をもとに専門弁護士の指摘を交えながら、解説する。
KPI化が進むコンプライアンス施策
多くの企業では、コンプライアンス体制の整備が進んでいる。研修、内部通報制度、内部監査などは、現在では標準的な取り組みとなっている。
弊社FRONTEOが実施した調査「FRONTEOリーガルレポート2025 AW 【実録】不正・不祥事の発生と有事対応の実態調査」によれば、企業が平時から実施しているコンプライアンス対策として多かったのは次の施策である。
• コンプライアンス研修・eラーニング(81.0%)
• 内部通報窓口の設置(78.9%)
• 内部監査(定期監査)(68.3%)
注目すべきは、こうした取り組みをKPIとして管理する企業が増えていることである。
• 研修の実施回数・受講率
• 従業員サーベイ結果
• 内部通報制度の認知度
などを設定する企業が多かった。
一方で、「KPIを設定していない(検討中含む)」企業も22.5%存在しており、コンプライアンス施策の数値管理はまだ試行段階ともいえる。
この傾向について、企業のコンプライアンス、リスクマネジメントに詳しく、今回の調査で監修を務めた長島・大野・常松法律事務所の勝伸幸弁護士は次のように指摘する。
「1年前の前回調査と比較して、コンプライアンスに関するKPIの導入が進んでいるとの調査結果は印象的です。各企業において、コンプライアンスに関する指標設定が進み、研修の実施回数等、既存のデータで測定が容易な指標が多く使われている一方で、いかに意味のある指標を設定・確認するか、メリット・デメリットも含めて、それをどう活用するかについて悩みながら検討を重ねられている企業のお話を聞く機会も増えています」
KPIが生む「意図しない行動」
KPIは組織の取り組みを可視化する手段として有効である。しかし、設計を誤れば思わぬ副作用を生む可能性もある。
勝弁護士は次のように警鐘を鳴らす。
「例えば、KPIを目に見える報酬と連動させる場合には、効果と弊害に配慮した設計が必要です。対象者が指標を操作したり、指標達成のためだけに最適化した形で行動を変容させる結果、本来の目的とは異なる結果を招いてしまうおそれもあります。その指標が当該組織・対象者にとってどのような意味を持つのか・受け取られるのかを慎重に見極めることも重要です」
コンプライアンスのKPIは、売り上げや利益のように単純な数値ではない。
指標の設計次第では、「数字は達成されているが、不正は防げていない」という逆説的な状況も生まれ得る。
内部通報制度は「認知」から「実効性」へ
今回の調査では、内部通報制度の重要性もあらためて浮き彫りになった。内部通報窓口の認知度をKPIとして設定する企業は増加している。不正の発覚経路として、内部通報の存在感が高まっているためである。
勝弁護士は次のように述べる。
「企業のコンプライアンスのための各種制度・取り組みの効果を検証するための指標として、『内部通報制度に対する認知度』をKPIとする企業の割合が増えています。『内部通報』の存在感は有事の発覚経路においても高まっており、内部通報の重要性があらためて認識されている状況を反映しているものと思います」
ただし、制度の評価は認知度だけでは十分とは言えない。
「今後は、制度に対する認知度の次のステップとして、実際に自社の内部通報制度が利用されている・機能しているのかどうかをどのように検証するのかが注目されるものと思います。内部通報の重要性を踏まえれば重要な課題であり、かつ、簡単ではありませんが、検証方法にも工夫のしがいがある面白いテーマです」
制度が存在することだけでなく、実際に機能しているかどうかを検証する視点が重要になっているのだろう。
「制度がある」から「制度が機能する」へ
今回の調査では、不正・不祥事を経験した企業から多くの実務的示唆も寄せられている。例えば、
• 経営層の継続的なメッセージ発信(tone at the top)
• 初動対応の迅速さ
• 証拠・ログ管理体制
• 海外拠点・グループ会社管理
などである。
勝弁護士は、有事対応から得られる知見の重要性について次のように述べる。
「今回の調査結果のうち、不正・不祥事が発覚した後の対応において『役立ったもの』『不足していたもの』という問いに対する回答は、各社の経験として参考になる有意義な内容だと思います。特に、有事対応の経験から得られる実践知・ノウハウは貴重であり、重要です」
さらに、これまで有事対応を経験する機会が少なかった企業については、
「自社に経験が少ない場合でも、社外のコミュニティを通じて、悩ましい課題や知識を学び、共有しあう取り組みが有意義といえます」(勝弁護士)
コンプライアンス体制の整備は多くの企業で進んだ。しかし今問われているのは、制度が実際に機能しているかどうかという視点である。
KPI、内部通報制度、有事対応体制……それらを形式ではなく、実効性で評価できるかどうかが肝要である。
今回紹介した調査では、不正カテゴリー別の発覚経路や初動対応の実態、企業が「役立った」「不足していた」と感じた対策など、実務的示唆に富むデータがまとめられている。企業のリアルな経験から得られた知見は、自社のコンプライアンス体制を見直すうえで重要なヒントとなるだろう。
弁護士プロフィール
長島・大野・常松法律事務所 勝 伸幸(かつ のぶゆき)
企業・組織のコンプライアンス、リスクマネジメント、国内外の危機管理・不祥事対応、不正調査等を主な専門分野とし、製造業、金融機関、製薬・ヘルスケア企業等の調査や当局対応に豊富な経験を持つ。米国をはじめとする海外当局による調査・執行リスクのある案件も多く取り扱っている。民間企業(製造業)への出向、海外留学・勤務を経て、データ分析を活用したコンプライアンス・プログラムの実効性検証、整備に注力し、近時は、組織風土の検証等にも携わる。非営利セクターにおいても役員経験を活かし、特にリソースに制約のある組織におけるリスクマネジメント体制や効果的なコンプライアンス体制構築等にも幅広く対応している。
調査概要
調査期間:2025年11月5日〜12月5日
調査対象:FRONTEO Legal Link Portal 登録会員(企業の法務・コンプライアンス担当者等)
調査方法:インターネット調査
有効回答数:142名
調査主体:株式会社FRONTEO
*FRONTEO Legal Link Portal:企業の法務担当者と弁護士・専門家をつなぐ会員制リーガルプラットフォーム
(本記事は、FRONTEO「リーガルレポート2025 AW」をもとに構成しています)
