東京海上、損保ジャパン…「保険料カルテル」が続くガバナンス後進国ニッポン
損害保険4社が「東急グループ」向け火災保険でカルテル
企業が競争相手と協力して、価格の下落を防いだり、市場を支配したり、利益を最大化させようと目指す行為を「カルテル」と呼ぶ。コーポレートガバナンス云々を論じる以前に、公正な競争を妨げるカルテルは断じて許されない。しかし、それでもカルテルが後を絶たないのは、カルテルが“禁断の果実”とも称されるように、企業にとって甘い罠だからにほかならない。
たとえば、中古自動車買取業者が全員で「最低買取価格」を設定したり、建設会社が「誰も入札を一定額以下では行わない」などという協定を結んだりするのが典型的なカルテルである。このような行為をすると、市場の競争原理を歪め、消費者は高い価格で購入するしかなくなるため、日本を含む多くの国では禁止されている。
さる2023年6月19日、東京海上日動火災保険などの大手損害保険4社が、私鉄大手の東急グループ向けの火災保険料で事前に価格調整を行っていた疑いがあるとして、金融庁が保険業法に基づく報告徴求命令を出していたことが明らかとなった。これに該当するのは東京海上のほか、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、そしてあいおいニッセイ同和損害保険である。
大企業向けの火災保険はリスクが大きいため、各社が分担して引き受けており、その保険料は過去の保険金の支払い実績などを考慮して決定されている。しかし、東急側が当初、提示された保険料が「現状よりも異常に高い」として問題視すると、後に割安な保険料が提示されたと伝えられる。金融庁は各社が調整し、過去の支払い実績を反映した水準からかけ離れた保険料を提示していたと見ており、その実情を調査している。保険料の割引を禁じた保険業法の「特別利益の提供」に当たる可能性がある。
なお、東京海上が東急向けの火災保険の主幹事を務めているが、同社は当初、東急向けの保険が金融庁の命令の対象かどうかの明言を避けながらも、「報告徴求命令を受けたのは事実。事実関係を調べているところだ」(『産経新聞』6月19日付)、「個別の契約において当社が主導したと思われるカルテルの疑いによって、報告徴求命令を受けた。詳細な調査を行っている」(『朝日新聞』6月20日付)などとコメント。そして、翌6月20日になって東京海上は、社員が価格調整を主導していたことを明らかにしている。
なお、『日本経済新聞』(6月20日付)によれば、「関係者は各損保で東急を受け持つ営業担当者がスマートフォンのメッセージなどで情報を共有し合い、事前に保険料の水準を調整していた疑いがある」と報じている。
この疑惑は、東急グループが2022年12月、損保4社に対して火災保険の入札を実施した際に発覚した。4社は「カルテル」の疑惑を否定しているが、もしカルテルを行っていたことが判明した場合、公正取引委員会から課徴金の支払い命令や刑事罰を受けることになる。
一般論として、どこで誰と会っているかなど、個人の行動の詳細を把握するのは難しい。逆に、個人を媒介として競合他社間でカルテルを行うのは別に難しいことではないのだ。ところが、今回のケースのように、スマホの普及で足が付くことになった。
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