【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#2】米エヌビディア、豪レゾリュート・マイニング、加バリック・ゴールド、英シェル、米タペストリー、米カプリHD
組閣人事報道も相次ぎ、世界がトランプ米大統領の再来前夜に揺れ動く中、世界では、どんなコーポレートガバナンスやサステナビリティ、リスクマネジメントをめぐる企業・組織の動きがあったのか――。今回はグローバル企業に絡んだニュース4件をお送りする。
米半導体大手エヌビディア、時価総額世界首位に返り咲き
米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)の株式時価総額が、人工知能(AI)向け半導体の需要拡大を受け、アップルを抜いて再び世界首位となった。11月16日時点の時価総額は、エヌビディアが3兆6000億ドル強、アップルは約3兆4497億ドル。
エヌビディアは6月にも時価総額で世界首位に立ったが、その後、マイクロソフトとアップルに抜かれていた。
そうした中、米主要株価指数のダウ工業株30種平均を算定するS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、ダウ平均から老舗の半導体大手インテルを外し、代わりにエヌビディアを採用した。
エヌビディアがAIブームに乗り急成長しているのに対し、インテルは出遅れ感が強い。インテルの2024年7~9月期決算は純損益が166億3900万ドルの赤字と、過去最大の損失を計上した。
ところで同社と言えば、ジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)が先日、来日。この手の海外大物経営者が来ると、やはり現れるのがソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長。2人で抱擁を交わす姿がマスコミで大きく報じられた。ちなみに、SBGの11月18日終値ベースの時価総額は13兆円弱(844億ドル)。彼我の差はあまりに大きい。
【S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス】NVIDIA and Sherwin-Williams Set to Join Dow Jones Industrial Average; Vistra to Join Dow Jones Utility Average
https://press.spglobal.com/2024-11-01-NVIDIA-and-Sherwin-Williams-Set-to-Join-Dow-Jones-Industrial-Average-Vistra-to-Join-Dow-Jones-Utility-Average
豪産金会社レゾリュートのCEO、アフリカ・マリ軍政に拘束される
オーストラリアの産金会社レゾリュート・マイニングのテリー・ホロハンCEO(最高経営責任者)が11月8日、西アフリカ・マリの暫定軍事政権に拘束された。同社が10日、明らかにした。これを受けて週明け11日の株式市場で、同社の株価は約33%の大幅な下げを演じた。
ホロハンCEOと同社幹部らはマリの首都バマコを訪れ、鉱山・税務当局との協議に臨んでいたところ、同氏と幹部2人が拘束された。
拘束から10日後の18日、同社は、マリ軍政との間で、1億6000万ドル(約247億円)を支払うことで合意したと発表。詳細は明らかになっていないが、CEOらの解放に向けた対応と見られる。ただ、同日時点で依然、解放のメドは立っていない。
マリはアフリカ有数の金産出国で、産金による収入は国家予算の4分の1、輸出収入の4分の3を占める。レゾリュートは、同国南部のシャマ金鉱山の権益80%を保有している。
マリでは今年9月にも、カナダの産金会社バリック・ゴールドの従業員4人が一時拘束された。同社も10月、軍政との間で、500億CFAフラン(約125億円)を納めることで合意した。
2020年にクーデターで実権を掌握した軍政は、旧宗主国フランスの駐留軍を追い出す一方で、ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員を迎え入れた経緯がある。
オランダ控訴裁、石油大手シェルに対する「温室ガス削減命令」取り消し
オランダ・ハーグの控訴裁判所は、英石油大手シェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)に温室効果ガスの大幅な排出削減を命じた2021年の下級審決定を取り消す判決を言い渡した。
シェルは、オランダの環境保護団体「フレンズ・オブ・ジ・アース・オランダ」などに19年、化石燃料の生産に巨額の投資を続け人権を脅かしているなどとして、提訴されていた。一審のハーグ地裁は21年、同社の「気候変動対策は不十分」と認め、温室ガス排出量を30年までに19年比で45%削減するよう命じた。同社はこれを不服として、控訴していた。
控訴裁は、シェルには人権保護の観点から気候変動対策に貢献する義務があるとしながら、同社は温室ガスの排出削減にすでに取り組んでおり、現時点では、45%削減を命じる科学的な根拠はないと結論付けた。
控訴裁判決を受け、シェルのワエル・サワンCEOは、「正しい判決」だと歓迎。「50年までに温室ガス排出量を実質ゼロにするという目標が引き続き、当社の戦略の中心にある」と述べた。
これに対しフレンズ・オブ・ジ・アース・オランダは、「衝撃を受けた」と敗北を認めながら、「これからも闘い続ける」と表明。ただ、最高裁に上訴するかは明言しなかった。
【シェル】Shell welcomes Dutch Court of Appeal ruling
https://www.shell.com/news-and-insights/newsroom/news-and-media-releases/2024/shell-welcomes-dutch-court-of-appeal-ruling.html
高級ブランド「コーチ」の米タペストリー、司法判断受け同業買収を断念
高級ブランド「コーチ」などを展開する米タペストリーは、「ヴェルサーチ」「マイケル・コース」を擁する米同業カプリ・ホールディングス(HD)の買収を断念したと発表した。買収は競争を阻害し、製品の値上がりにつながるとして買収計画の差し止めを命じた連邦地裁の判断を受け入れた格好だ。
タペストリーは昨年8月、85億ドルでカプリを買収する計画を発表。事業を統合して「ルイ・ヴィトン」を傘下に持つ仏LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)など競合他社に伍していける競争力を確保する狙いだった。
しかし、日本の公正取引委員会に当たる米連邦取引委員会(FTC)が、買収によって競争が阻害される恐れがあるとして、タペストリー、カプリ両社を今年4月にニューヨーク南部地区の連邦地裁に提訴。連邦地裁は10月、FTC側の主張を認める判断を下していた。
【タペストリー】Tapestry, Inc. Announces Termination of Merger Agreement With Capri Holdings Limited
https://tapestry.gcs-web.com/news-releases/news-release-details/tapestry-inc-announces-termination-merger-agreement-capri
【ニューヨーク南部地区連邦地裁】OPINION AND ORDER
https://cases.justia.com/federal/district-courts/new-york/nysdce/1:2024cv03109/620150/339/0.pdf?ts=1729860513
(毎週火曜日連載、次回#3は2024年11月26日公開予定)
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