「日本ガバナンス研究学会」企業献金から大学・兵庫県知事問題までを徹底討論《年次大会記後編》

(前編からつづく)ガバナンス弁護士の泰斗として知られる久保利英明氏が会長を務める日本ガバナンス研究学会。その年次大会が10月5日、大阪・茨木市の追手門学院大学安威キャンパスで開かれた――。今回はその大会レポートの後編。
【日本ガバナンス研究学会】第17回年次大会特設ページ
https://jagra.jp/contents/taikai17.html
企業の政治献金は「CGコードの多様性尊重に背く可能性」
2023年から政界を揺るがし、先の総選挙でも与党を惨敗に追い込んだ自民党派閥の裏金事件。政治献金をめぐっても企業の責任を考える報告があった。
一般社団法人監査懇話会の会友で、住友化学の内部監査部長を務めた経験もある板垣隆夫氏は、「コーポレート・ガバナンスの観点から政治献金を考える」とのテーマで報告。今国会で改正政治資金規正法が成立したが、根本的な解決にはほど遠く、国民の怒りは収まる気配がないと指摘し、「カネの出し手である企業の責任を問う声が高まっている」と問題提起した。
政府や自民党は企業の政治献金の正当性として1970年6月に最高裁判決を挙げる。「八幡製鉄政治献金事件」と呼ばれ、企業の政治献金が適法だとの判断を下した。
これに対し板垣氏は、当時は共産党一党体制のソビエト連邦が米国と激しく対立していた冷戦期だった特殊な時代背景があると指摘。企業側が献金の理由としてきた「自由主義経済の維持」という言葉にもそれなりの説得力があったが、当時でも一審と二審で司法判断は分かれているほか、判決からすでに半世紀が過ぎ、ソ連は崩壊してグローバル化が一気に進むなど、国際情勢が大きく変化したことを強調した。
そのうえで、2015年に策定された金融庁の「コーポレートガバナンス・コード」(CGコード)を考慮して政治献金の問題を考えるべきだと訴えた。CGコードでは、ダイバーシティー(多様性)の重要性を強調し、「企業の持続的な成長を確保するうえでの強みとなり得る」と多様性の確保を求めている。板垣氏は、これらのことを踏まえて企業による特定の政党への政治献金を考えると、「思想信条を含む多様性の尊重に反したことにならないか」と問題を提起した。
OECD(経済協力開発機構)の「コーポレート・ガバナンス原則」でも、取締役会は経営陣によるロビー活動を監督するよう呼びかけ、さらに政治献金を含むロビー活動の開示に関する言及もしており、板垣氏は「『社会貢献』や『民主主義のコストの負担』などとあいまいな説明では企業はその責務を果たしたことにならない」と厳しく指摘した。質疑応答でも会場から「企業献金が(自民党派閥のような)犯罪行為を助長するような形になってしまいかねない」との声も出た。
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