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【わが社の内部通報#1】アスクル「ホットラインは社員を守る制度」声を大切にする会社の内部通報

「声」を大切にする企業文化

アスクルは創業以来、「お客様の声」を成長の源泉とし、外部からの、ちょっとした意見や要望であっても貴重な改善の機会として捉える企業文化を育んできた歴史がある。

「私たちは流通・小売り事業が祖業で、商品をメーカーさんから仕入れ、エージェントのみなさんと一緒になって日本全国に販売するというビジネスモデルです。そのため、お客様の声を大事にし、その声を社内に徹底的に浸透させることがアスクルのDNAと言えるかもしれません」

小和田氏が話すとおり、BtoB事業であれBtoC事業であれ、日々寄せられる顧客からの声を社内に配信し、商品やサービスの担当部門が迅速に対応する仕組みが確立されているという。もちろん、そこにはクレームをはじめとするネガティブな声も含まれるわけだが、その一つひとつを無駄にしないよう努めてきた。

一方、アスクルでは創業から13年経った06年という、当時としては早い時期に「ASKUL CODE OF CONDUCT(アスクル・コード・オブ・コンダクト)」(倫理・行動規範)を制定。「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける。」というパーパス(存在意義)のもと、取締役からパートタイマーまでグループで働くすべての人たちが遵守するべき行動の基本ルールを定めている。

そこには顧客、株主・投資家、パートナー企業、そして社会のステークホルダーに対してアスクルがどのような考え方で向き合うか示されており、例えば《お客様に対して》の項目では、苦情については速やかに原因追求を行い、誠意をもって対応し被害の拡大・再発防止等を講じることが謳われている。また、商品やサービスに関して提供すべきすべての情報について、〈例えアスクルにとって不利益な情報であっても、お客様に対し適時適切に開示します〉と明示している。

こうした「声を大切にする」「不利益な情報でも適時適切に開示する」という企業文化が、今回の内部通報制度拡充にも反映されていると言える。そのため、取引先への通報対象拡大などについても、社内から導入に反対するような声はまったく上がらなかったという。とはいえ、“パンドラの箱が開く”といった懸念はなかったのか。

「パンドラの箱が開かないことが素晴らしいのではなく、箱が開いてしまったら開いてしまったで、ちゃんと向き合っていこうというのが社内の方向性でした。その意味では、内部通報の担当としては拡充に向けた動きは進めやすかったです」(小和田氏)

アスクル本社(東京・江東区)

内部通報は「社員を守る制度」

ところで、冒頭のとおり、内部通報システムの目的について小和田氏は「社員を守る制度」と位置付けている。教科書的な理解では、内部通報は不正の早期発見・是正が前面に掲げられるもの。言い換えれば、「会社を守る」ことに主眼が置かれる傾向が強い。

「不正を働く人間は元から悪い人というわけではなく、環境が不正を働かせるという側面があると思います。指摘してくれる人がおらず、取り締まられるルールもなければ、歯止めが利かなくなることもある。自らの行動を省みる必要がある人たちであっても、会社として守るべきだと考えています。それを早く見つけてあげる手段のひとつが、ホットラインではないでしょうか」

そうした“芽”を早期に発見して大事に至る前に是正の機会をつくり出すことこそ、内部通報の役割ではないかというのが小和田氏の考えだ。

今後の課題としては、M&A(合併・買収)などによって新たにグループに加わった企業のガバナンス強化もあげられているという。当然、そこには内部通報制度についての考え方も含まれる。

社内外の声を共有し、それを改善の糧として開かれたガバナンスを築いてきたアスクル。内部通報を担当する小和田氏はサステナビリティ全般を管掌しているが、それはとりもなおさず、ホットラインが持続可能性を担保するものという同社の考えからにほかならない。

「今回の制度拡充で、アスクルの内部通報制度が完成したとは考えていません」と語る小和田氏。アスクルの内部通報は、今後もさらなる進化を遂げていくことだろう。

(取材・構成=編集部)