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富士フイルム元CFOが伝授「不祥事を繰り返す企業」を変革する方法#3《最終回》

「シームレスな人材マネジメント・システム」で
“将来の社長”を育成する重要性

つまり、同じ企業が不祥事を繰り返す理由は、やはり経営理念に基づく企業文化がないことが原因と言わざるを得ません。トップは執拗に、何度でも経営理念を企業の末端まで浸透させなくてはなりません。最も重要なのは、不祥事を繰り返す企業が自らの経営理念に基づく企業文化をどうやって変えることができるのか――ということです。

まずは、経営トップが誠実性や倫理的価値観を持った責任経営者に代わることが大前提になります。つまり、そういうトップをまず選ばないといけない。それは、人事や指名委員会がしっかり機能しているかどうか、“責任経営者”を育てる社内研修をしっかりやる「シームレスな人材マネジメント・システム」の仕組みを作ることが重要です。

確かに、社内研修は大手企業であれば、どこの企業でもやっています。なかでも私が一番大事だと思うのは、課長研修と部長研修です。1週間程度、泊まりがけで、外の世界と遮断する“缶詰方式”で実施したほうがいい。そこで、#1で触れたような「ハーバードの白熱教室」形式の喧々諤々の議論をするのです。

研修の1週間は、例えば部長であれば、所属部署には一切電話をさせないほうがいい。部長は1週間、職場を留守にして、業務は部長代理に任せます。そうすると、部長代理は普段、部長がやっていることがよくわかるようになる。取引先や協業先から引っ切りなしに相談の電話がかかってくる、それとは逆に、夕方になると銀座のクラブからお誘い電話が来るとか……日常では知らない部長の色々なことが見えてきます。そうすることによって、部下たちも育っていくものです。

その結果、部内でもリーダーシップを持って率先して仕事をするような優秀な社員が頭角を現してきます。そういう社員を企業は出世させていくのです。一方で、決められたルールすら守れない社員も出てきます。そういう社員はどんなに営業成績が良くても、社長だけにはしてはいけません。決められたルールを守るか・守らないか、そういう場面で人間性というものが露呈する。「ルールを守らない」というのは、誠実性や倫理的価値観がないということですから、研修を通じて篩(ふるい)にかけることが大事です。

一方、ショートターミズムの問題で言えば、目標設定はどの程度適切かを考えてみると良いでしょう。トップが目標を掲げて、トップダウンで下に降りていくだけでは、全く意味がありません。カエルが柳に3回飛びついて、ようやく1回タッチできるくらいの目標設定が一番良い目標設定だと言われています。そうした目標設定はトップダウンではなく、上と下とが擦り合わせて作り上げていくしか方法がない。常務は部長と、部長は課長と擦り合わせをする。時間はかかりますが、そうしたことをやらないと適切な目標設定はできないのです。

そして一番良くないのは、目標を与えて手段を与えないこと。ただ単に目標だけを与えて、設備投資の予算を与えない、営業投資の予算を与えない……これでは最悪です。上と下とが擦り合わせをすると、目標にはどの程度の手段が必要なのかが見えてきます。目標に対して、どの程度の手段・方法が用意されているかについての議論がなければ、「目標達成のためには何でもやれ」という話になってします。ショートターミズムが横行する企業には、経営理念に基づく企業文化が根付かないことは言うまでもありません。

以上見てきたとおり、企業不正・不祥事の陰には、必ず、経営者資質の問題があります。そして、その企業の企業理念に基づく企業文化を社内の末端にまで浸透させる責任は、社長にあります。絶えず下は上を見ています。このことを経営者自身が肝に銘じる必要がある。そうでなければ、不祥事は繰り返されることになるでしょう。

(了)

【シリーズ記事】
三菱電機、神戸製鋼……不祥事を繰り返す企業に“企業文化”は…
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