富士フイルム元CFOが徹底分析「不祥事企業60社」の真因 #2
「ショートターミズム」(近視眼的経営)と「経営者の資質」
そこで、上記の約60社のケースを大きくまとめて法則性を導き出してみますと、「納期優先・コストカット等」が半分、残りの半分が「売上高(短期利益)至上主義」と、これらが不正・不祥事の2大要因と言えます。そして、この2種類に共通するのが「ショートターミズム」(近視眼的経営)です。
この観点から、不祥事を防ぐために企業は何をすればいいのでしょうか。①経営者は株主主権論に基づく短期株主(アクティビスト=モノ言う株主など)の要請に屈しないこと。②機関投資家(ファンドマネージャーやストラテジスト)のショートターミズムを是正すること。③コンプライアンスの実効性を上げるためには「制度・運用・経営者資質の三位一体の改革・改善」が必須であること。そして④「歪められた目標管理制度」を改善すること――この4つが対策として求められるでしょう。
ところが、約60社中、社内に全社横断的なコンプライアンス委員会などを持つ社が35社あったにもかかわらず、機能せずに不祥事を起こしているのは見逃せない事実です。その理由は、①コンプラ・プログラムの内容が稚拙、②プログラムにあるコンプラ研修がきちんと実施できていない、③社長がコンプラ委員長を務めずに兼務役員(事業部長や専務・常務クラス)に丸投げしている、④コンプラ委員会が半年1回程度の開催で、社長直属ではない――ことなどが挙げられます。
しかも、約60社の実に7割で、トップの引責辞任や報酬減額、あるいはトップ自身が謝罪会見に応じざるを得なかった。つまり、「経営者の資質」に問題がある企業だったと言えるのです。
経営者資質について、米国では企業改革法(サーベンス・オクスレー法=通称SOX法、わが国の金融商品取引法の源典)の第4章406条に基づいて、政府機関である証券取引委員会(SEC)は上場企業に対し「CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、 CAO(最高管理責任者)、コントローラー等のための倫理コード」の制定を間接的に強制しています。曰く「個人と職業との間における明白な利益相反を倫理的に処理することを含む、誠実で倫理的な行動」を求めている。言い換えれば、CEO職にある限りは、名誉欲や金銭欲、いずれの欲求であろうが、CEO個人はそれらの欲望を「自らコントロールしなさい」という誠実で倫理的行動を求めているのです。
不祥事の原因の多くは経営者の意思決定そのものにあります。例えば、赤字にできない、非現実的な増収増益やコストカットのプレッシャー、問題や不都合な事象の社外発表を遅らせたい……などです。こういった欲望が頭をもたげるとき、経営者は果たして自律的に自らの良心に従って意思決定ができるかどうか。残念ながら、概ね誘惑に負けることが多いというのが実情でしょう。かのカルロス・ゴーン氏のことを思い浮かべてみてください。彼はフランスのベルサイユ宮殿で開いた再婚式費用や、「社長号」という豪華ヨット代の支払いを会社に付け回したのですから。
次回#3(最終回)では、特に不祥事を繰り返す企業を如何にして変革するかについて、考えてみたいと思います。
(#3に続く)
*本記事は2023年4月に旧サイトに公開したものを調整のうえ、再公開したものです。
【シリーズ記事】
ピックアップ
- 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#4】伯ペトロブラス、ヨーロピアン・エナジー、米スペースX、泰ガ…
伯ペトロブラス、デンマークの再生エネ企業と「eメタノール」生産へ ブラジル国営石油会社ペトロブラスは、合成燃料の一種である「eメタノール」の…
- 【2024年12月2日「適時開示ピックアップ」】シンワワイズ、フィスコ、クシム、小林製薬、象印、イメ…
師走に入って最初の取引日となった12月2日月曜日の東京株式市場は反発した。日経平均株価は前週末から304円値上がりして3万8513円になった…
- 「見えないゴリラ」を見るためのリスクコントロール【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#6】…
企業不祥事と「見えないゴリラ」 「見えないゴリラ」について、私自身、「企業不祥事」の文脈で業務上、過去に2回ほど触れたことがある。 ひとつは…
- 【米国「フロードスター」列伝#2】国際サイバー犯罪の元祖インターネットのゴッドファーザー…
毒親に育てられた“万引き家族” アメリカの東部、南部、そして中西部に囲まれた「経済と文化のクロスロード」ケンタッキー州。ブレット・ジョンソン…
- 「日本ガバナンス研究学会」企業献金から大学・兵庫県知事問題までを徹底討論《年次大会記後編》…
「非営利組織」におけるガバナンスの課題も俎上に 大会の最後に行われた統一論題は「信頼向上に向けたガバナンスの確立~多様化する組織と不正の視点…
- 三菱UFJアセットマネジメントが「選任反対」した取締役・監査役リスト#2《4000~6000番台企業…
ENEOS宮田社長「不祥事でも有責」でも9割超の賛成率 「不祥事に対する有責」を理由に反対された企業のうち、取締役選任案の賛成率が最も低かっ…